2度目。ーー野外訓練2日目。番犬ならぬ番狼? となったらしい。・2
少々暴力的な描写及び出血描写あり。苦手な方は今話はお読みにならない方が宜しいと思われます。
昼食をお母様と一緒に、というおまけ付きではあるものの作ったからか、「疲れた」とゴネるお姉様を無視して奥へと足を向ける。まだこの野外訓練のメインが終わってないのに今から疲れてどうする。そんな事を思いながら足を進めて行くと何かがこちらへやって来る。
「ナイフを!」
獣だ、と音から察して2人に指示をすれば、お母様はサッと取り出したのに、お姉様はもたもたしている。獣に遭遇する前に出してもらわねばならないから、取り出しやすくしておいて下さい、と口を酸っぱくして言ったのを忘れたのだろうか。何とか取り出したのを横目で確認して正面から来た獣は一匹。狼で、あの親子より理性が有るようには見えない。……これは、凶暴性のある獣!
「この獣を倒すのが、目的です。私は補助をしますが、お母様とお姉様で仕留めてください。いいですね!」
「はぁ? 無理よ、無理っ! こんなおっかない獣なんて!」
「何を言っているんです! これこそが野外訓練の大事な訓練です! この獣が倒せないと野外訓練が延びますよ!」
私が倒せ、と言えば、案の定お姉様が喚いたので強く叱り飛ばす。悪いが姉だ、母だ、と敬っている場合ではない。気を抜いたら殺される可能性が高い。私は凶暴性のある獣を見据えつつ、獣の戦力を少しでも削げるように足元を狙うことにしよう。向こうは理性が無いから、こちらに気付いて直ぐに、そのまま勢いを殺さず走って跳躍して来た。
きっと私を獲物だと思ったのだろう。だが、それはこちらも好都合。飛び掛かって押し倒されたまでは予測していた。私の上に乗って口を開けるよりも先に、前足を切りつける。
グアッ
と短くも叫び声を上げた獣は、私から離れて警戒心を強めた。距離を取ってこちらの様子を窺って来る。前足は結構深く傷つける事が出来たからか、血が流れたまま。だが当然ながら戦意は失われていない。
これが理性的な獣だと、自分が不利だと判断するのか逃げて行く事が多いのだが、凶暴性のある獣だとその判断はしない。だからこそ、出会したのなら倒さないとこちらが殺される。
獣は、私ではなく、お母様とお姉様に意識が向いたのか、そちらへ身体を向けた。
「ヒッ」
短い悲鳴はお姉様。お母様は青褪めた顔であっても気丈にナイフを持っている。
「倒さねば殺されます。死にたくないなら、倒して下さい!」
「ケイトリンがやりなさいよ!」
私の声にお姉様が、反射的に返してくる。この状況でも未だ言い返す元気があるなら大丈夫ですね。そして、相変わらず私頼みなのはやめて欲しい。
「言ったはずです! 私は2人がどうしても駄目だと、私が、判断した時に手を差し出す、と。倒すのは2人の仕事です! 我等辺境領の者達は、日々、こういった事態に対処するように訓練をしている、といい加減覚えて下さい!」
最後は怒鳴った私に「なによぉ」とぶつぶつ言う声が聞こえてきたが、私は無視する。獣から視線を逸らさないでいれば、獣は近場のお母様に飛び掛かっていった。
「お母様っ!」
悲鳴混じりにお姉様が呼びかけ、だが、それに応える間もなくお母様は獣に倒される。
「ケイトリン! 何処なら倒せるの!」
お母様の声に「喉を! 無理ならともかく傷つけて!」と返す。形振り構っていられないのは、此方も獣も同じ。お母様は力一杯ナイフを突き出したようで
ギャアッ
と獣がお母様から飛び退った。そして今度はお姉様に向かって行く。
「イヤァアアア!」
と叫びながら無茶苦茶にナイフを振り回すお姉様を見て恐れを成したのか、獣が近寄らない。だが慎重に歩を進める獣。そうして近寄った時に偶々振り回していたナイフが当たったのか、また獣がギャアと叫ぶ。お姉様は返り血を浴びている。
何処に当たったのか分からないが、お姉様に意識を向けて警戒していた獣の背後から、お母様が喉だか背中だかにナイフを突き立てた。
「キャスベル! あなたも!」
お母様の声にハッとしたような顔でお姉様は、とにかく無我夢中で、といった感じで獣にナイフを突きつけた。獣は、何が致命傷になったのか、ドサリとその場に横たわり、暫く痙攣していた。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




