2度目。ーー野外訓練1日目。メインには添え物が必要です。
…………………………。
どうしてこうなった。
私は森の入り口で佇むお母様とお姉様の背後で深く溜め息をついた。いや、何故こうなったのか、理由は解ってます。数日前のあの話し合いにて私の提案を受け入れた目の前の2人。お父様はそれを了承して、私にサポート役を頼んできました。
……私達の時、居ませんでしたよね⁉︎
と抗議したら、私達はそれまでに野外訓練に必要な知識や力を付けさせた。でも2人にはそれが無い。と、尤もらしい事を言われた。まぁそれも本音だろうが、お父様はお母様に何かあると困るから、私をサポート役にしたのだろう。どんだけお母様ラブなんだ、この人。だから甘やかしまくりって私に突っ込まれるんですけど。
要するにメインの2人を支える添え物なんだな、と理解した私はどうしても2人だけではダメだと私が判断した時に、手伝うサポートとして引き受けた。お父様は渋い顔をされて「もう少しなんとかならないか」と言ってきたので、「それだと修道院行きになりますね」と言ってやった。お父様は速攻で「ケイトに任せる」と言ってきた。だからどんだけ甘やかそうとするんだよ。
さすがにお父様への尊敬の気持ちが段々低下してきたところで、日程が決まり、そして現在私は2人と一緒に森の入り口に立っている。
「この中に入るの?」
お姉様、今は未だ昼間ですよ。今から怖気付いてどうするんですか。夜はこの森の中で過ごすんですよ。
「昼間のうちに寝床を確保しないと夜は本当に見えなくなるので、先ずは寝床になりそうな所を探します。木の根っこが出ている部分はやめて、大人が最低2人は寝られそうな場所を見つけて下さい」
淡々とお母様とお姉様に指示すると、お姉様が目を剥いた。
「見つけてってケイトが探すんでしょ!」
「何故?」
「サポートじゃないの!」
「聞いていませんでしたか? 私は知識を与えるだけ。お2人だけでは本当にどうにもならない、と私が判断した場合のみ手助けする、とお父様が仰ったでしょう」
「今がそれよ」
「いいえ。私はそんな判断はしていません。尚、私もお兄様もロイスも事前に今のように話を聞かされただけで、自分達で寝床を確保しました。お兄様は野外訓練の経験は有りましたが、私達には経験はなく、ついでに言うならば今のお姉様より年下の頃でしたね」
「私は病弱なのよ! 少しくらい手伝いなさい!」
「本当に病弱でこの野外訓練に耐えられないか、事前にお医者様にチェックしてもらいましたよね? ついでに言えば、もう病弱だなんて言えるような身体ではなく、健康そのものという宣言ももらいましたよね。それでも出来ない、嫌だと言うなら、今から引き返してお父様に修道院行きをお願いして下さい。私の判断が気に入らないのも同様です」
滔々と私が突き付けて、お姉様は黙る。一生修道院行きよりは、今日から3日間を我慢する方がマシだと判断したらしい。はぁ。初日からこれでは先が思いやられる。お母様は、私達のやり取りが終わった後、お姉様を宥める事もせずに寝床を確保するために、森の中へと足を踏み入れた。お姉様はお母様を見て味方になってもらおうとしたのだろう。さっさと歩き出した姿を見て、顔を青褪めさせつつ後を追った。
さて。私も自分の役目を果たしますか。
取り敢えず2人には真っ先に寝床の確保。いい場所が見つかったら、雨露が凌げるように布を張って(でも防水加工なんて出来ないからザーザー降りだと意味ないけど)地面に直接寝転ぶように冬用の上着を着込んで寝る事を注意しておく。お姉様が「布団は⁉︎」なんて言うので「持ってるように見えますか」と言っておいた。
野外訓練に布団持参って動けないから。寝床を確保したら食糧確保。食べられる木の実を教え、食べられる野草を教え、焚き火を起こす事も教える。ちなみに食糧は明日の朝分まで必要だからその分まで確保しておいた。後は焚き火を絶やさないために……というか、まぁ見張りだよね。獣に襲われないように見張り。私はお姉様・私・お母様の順で見張りをする事を伝えた。
お姉様は「なんで私がそんな事!」と叫ぶので「修道院」と一言言って黙らせる。焚き火が消えないように、かといって煌々と炎を照らさないようにお姉様に口酸っぱく伝えて1日目は終了した。……なんて事はなく、案の定お姉様は夜の森が怖くて焚き火を絶やさないどころか沢山薪を燃やして獣を呼び寄せた。
お姉様の「助けて!」という叫び声で目を覚ました私は、気配を感じ取って溜め息をついた。ヤレヤレ。初日からこれか。いい加減、お姉様は人の話を聞く耳を持つべきです。




