1度目。ーー直ぐそこにある不穏と婚約者の後ろ姿。
本日はコッネリ公爵とのガーデンパーティー。コッネリ公爵を歓待するためのもの。帰っていいはずなのに帰らないコッネリ公爵の機嫌を損ねないよう言わばご機嫌取りのもの。とはいえ公式的なものなので我が国の国王陛下夫妻と王太子であるイルヴィル殿下とご婚約者のシュレン様。そして私の婚約者様と私に我が国の公爵夫妻や侯爵夫妻以下上位の貴族達が一堂に会する。ガーデンパーティーは婚約者若しくは夫妻での同伴パーティーであるので当然私は婚約者様にエスコートされなくてはいけない。
だと言うのにヴィジェスト様は何をお考えなのか私をエスコートなどせずに従えている。つまり私が見ているのは彼の背中。まぁエスコートをされたいとも思っていないから構わないけれど公の場くらい演技はするべきじゃないかしら。さすがにロズベル様を連れて来ないという配慮はあったようだけど。それは私への配慮ではなくロズベル様への配慮でしょうね。こんな所に連れて来て彼女の評価が下がるのは嫌でしょうから。散々国王陛下ご夫妻と王太子・イルヴィル殿下に仰られたのに関わらずコレだもの。聞く耳を持たないのか脳内が都合良く塗り替えられているのか。どちらにしてもこの場合は私が咎められるのではなくご自分が咎められる事を理解していらっしゃらないでしょうね。まぁいいわ。やがてガーデンパーティーが始まり主賓のコッネリ公爵がいらっしゃった。その後ろからプラチナの髪の女性が……。
莫迦な!
こんな所で彼女の素性を明らかにするつもり⁉︎
さすがに情報を持っていた私でも咄嗟に判断出来なかった。その反応の遅れが彼女を登場させてしまいーー
「国王陛下並びに王妃殿下。この度は私のために素敵なガーデンパーティーをありがとう。お礼に私の養女をご紹介したいと思いましてな」
「娘?」
国王が剣呑な視線をコッネリ公爵と背後の女性に向ける。もう女性が誰なのかご存知なのだろう。
「ええこの度我がコッネリ公爵家に養女として迎えたロズベルと申します。ロズベルご挨拶を」
「ロズベル・コッネリと申します。どうぞこれからもよろしくお願いします」
これからもよろしくお願いします。なんて元から関係があると言っているようなものじゃないの。コッネリ公爵を迎える為隣に立っていた婚約者様をチラリと見れば呆然とした表情を浮かべている。知らなかった、ということか。
まぁそうでしょうね。
ロズベル様が隣国のコッネリ公爵の養女として迎えられるなんて私も思っていなかったし。あくまでも表向きは養女か。でも本当は違う事を私は知っている。証拠はあのロケットペンダントにあった紋章。あれはコッネリ公爵のものではない。隣国の現国王陛下の父親の弟……つまり現国王の叔父が当主の公爵家の紋章。彼女は王家の血を引いている。本当はそれを言いたかったのだろうけれどあのペンダントを無くしたから仕方なくコッネリ公爵の養女という体を取ったというところか。
ヴィジェスト殿下の婚約者の座を狙うには充分な身分ですものね。
別に殿下の婚約者の座は明け渡しても良いけれど、それに便乗して別の問題を起こされるのは御免被りたいのよね。お父様が証拠を持って辺境を出られているとしても到着するのは早くて明日。今日は穏便に過ごしたいのだけど……。
そんな事を考えながら様子を見ていた私にコッネリ公爵がニヤリと私を見て国王に大声で宣った。
「どうだろう。私の養女とヴィジェスト殿下は相思相愛の仲だと聞いている。両国の友好関係を築くために婚約を結ぶのは?」
それが目的か。大方それを聞いた私の取り乱す所を見たいのでしょうけれどお生憎さま。そんな事で取り乱す程可愛い小娘じゃないわよ、私。
「おおっ! コッネリ公爵殿! 本当か? 父上! 今すぐ婚約しましょう!」
あらまあヴィジェスト殿下って莫迦だったのね。口車に簡単に乗るなんて。
「お前にはケイトリンがいるだろうが!」
「辺境伯の娘なんて田舎臭い娘は婚約破棄しますよ! いいな? この私と婚約していただけ有り難いだろう⁉︎ 婚約破棄は決定だ!」
それを決めるのはあなたではなく陛下ですわよ。って言いたいけど婚約破棄は有り難いわね。本当は破棄じゃなくて解消にするべきなんだけど。
「かしこまりました」
私が即答すれば国王陛下の顔色が真っ青になったけれどそんなことまで私は知らない。悪いのはあなたの息子です。満面の笑みのヴィジェスト殿下は放っておくとして、さてコッネリ公爵はどう出る? これで満足するような人ではない事は既に承知していた。




