2度目。ーー闇に紛れて己を隠そうとする愚か者。・3
結論から言えば、これが功を奏したようで。お兄様がジッとバートンを眺めていたからこそ、判明したようなのですが。
「分かった」
お兄様が一言呟いて、私はお父様を止めた事に安堵しつつお兄様をチラリと見ました。一体何が分かったのですか? お兄様は私の視線に気付いたように、にこりと笑って頭を撫でた後、お父様に発言の許可を得ています。お父様も情に引っ張られて重い罰を与える発言をしてしまったので(私が止めたから、撤回しましたけれど)、一旦落ち着くためにお兄様に頷かれました。
「バートン」
お兄様の声にも当然、バートンは落ち着き払っています。
「お前の目的が解った」
「私の目的?」
お兄様の一言には、私も驚きましたが、バートンも少し興味が惹かれたようです。
「アウドラ男爵家は、元を辿ればセイスルート家の現当主から数えて8代前の当主の子が興した家。もう一つ子爵家も同時に興ったが、こちらは3代目の跡取り……つまり4代目となる女児にセイスルート家の男が婿入りしたのがきっかけで、結局セイスルート家に統合された。
それで伯爵家であるウチと男爵家であるアウドラ家だけが残っている。現アウドラ当主は、男爵の地位がご不満のようで、ウチの弱味を握って地位を上げようと考えていたようだが……」
お兄様がそこで言葉を区切ります。その際にアウドラ男爵をチラリと見て。
そうなのです。アウドラ男爵の狙いって昔有った子爵家を自分達が引き継ぎたい、というものだったんですよね。……欲が有るのか無いのか分からないですが、狙いがソレって随分小物ですわよね。
「けれど」
お兄様が再び言葉を繋ぎます。
「バートン、お前の目的はそんな小さなモノじゃなかった。お前は……セイスルート家そのものを奪いたかったんだな。ケイトリンが父上に進言している姿を、憎々しげに見ている目を見て気付いたよ」
お兄様の静かな声がこの場を打つ。
波紋が広がるように全員に言葉が届いたタイミングで、バートンが哄笑します。その姿に、お姉様が驚いたように「バートン?」と呼びかけ、シュゼットとミュゼットも……いえアウドラ男爵夫妻も、バートンから一歩引いて見つめています。此方は所謂ドン引きですかね?
「良く、分かったな。ああそうだよ! 俺は男爵位程度で収まるようなそんな小さな人間じゃない! 辺境の地にて最高位である伯爵位を持って、そして現王家に忠誠を誓い侯爵位を得る予定だったのに! そのためには、セイスルート家を潰してアウドラ家が伯爵位を奪うつもりで、キャスベルなんかと婚約してやったのに!」
バートンはそこでお姉様を睨み付けます。お姉様はおそらく、初めてそんな顔のバートンを見たのでしょう。
「バートン? えっ? どうして?」
混乱したようにバートンに呼びかけていますが、バートンはそんなお姉様を当然労る事もなく、虫けらを見るような目で見下しながら続けました。
「病弱とか言うキャスベルの見舞いと称して、セイスルート家の弱味を調べようにも隙が無いし、その女は性格が我儘で、この俺を顎で使おうとするし、その上学園に入ればバカと言える程勉強も出来ない。こんな女がこの俺の隣に居るってことが本当に気に食わなかったよ。よりによってこんなバカ女を俺の婚約者に据えた父親も、セイスルート当主も、殺してやりたいくらいだ。妹のケイトリンは、賢すぎて手玉に取れないからな。ケイトリンがキャスベル程じゃなくて、少しバカだったら俺の婚約者にしてやっても良かったのに。そう思えば、お前も憎いな、ケイトリン」
うーむ。バートン、自分を偽る事すらやめちゃったよ……。お兄様に自分の本心を突き付けられて偽る事を不要に思ったのかしら?




