2度目。ーー闇に紛れて己を隠そうとする愚か者。・2
アウドラ男爵の方がまだ扱い易い。
彼は金とか地位とか名誉とか分かりやすい欲に目が眩むタイプだから。その辺を上手く使えば口を割るのは簡単だろう。
奥方はもっと単純。
人をいつでも羨んでいるからその辺を刺激すれば、口か滑らかになる。
シュゼットとミュゼットは何を何処まで知っているのか、までは知らないけれど、怯えたように見える様子から、ちょっと突っつけば口を開くはず。
ーーあの怯え方が演技で無ければ、という注釈はつくけれど。
だから、やはり難敵なのはバートン。
情に訴えても直ぐに切り捨てられる非情な面がある。こういう人は多分、プライドを折る方がキレて勝手に暴走してくれる。とは思うけれど、確証が無い。プライドを折るにも、そのプライドがどういったものなのかも分からない。彼の目的が見えないから……。
「お兄様」
「ん?」
少し考えて先ずはお兄様に声をそっとかけます。お兄様もこの場・この雰囲気を理解して静かに返答してくれます。
「バートンの目的をご存知です?」
「……いや。表向きはアウドラ男爵家の当主を継ぐ事を目標にしていたみたいだが。こうなると別の目的があるようにしか思えないな」
お兄様が軽く首を振る。お兄様がバートンの目的を知らないのは予想通り。でも何かしら収穫が有るか、と尋ねてみたのです。
「そうですか。それにしても……アウドラ男爵は見苦しいですわね。バートンの方が余程落ち着いています」
「ああ。この期に及んで自分は何もしていない、と叫ぶ姿が見苦しいよ」
……ふむ。お父様が男爵の罪を上げている事に一々否定をして喚いていますが。アウドラ男爵を先に崩す方が早そうですね。
あ、お父様がいい加減に怒りましたわ。
「黙れ。この辺境の地を自分勝手に騒がせた証を既に影達が抑えている。処刑を覚悟しておけ」
「お待ちをっ」
お父様の最後の発言に、私は驚いてさすがに口を挟みました。お父様がジロリと私を見て邪魔をするな、と言いたげですが、邪魔をするに決まっているじゃないですか!
「なんだ」
良かった! 口を挟むな! と叱られてしまえば、向こうの……バートンの思う壺になる所でした! バートン、まさかこれを狙っていたとは思いませんが、あわよくば……とは思っていましたよね、絶対。
「セイスルート辺境伯卿に申し上げます」
此処は国王陛下や王族方・宰相以下タータント国の重鎮が居なくても、公の場ですから、私は“お父様”ではなく“セイスルート辺境伯”と呼びかけます。お父様が苛々しながらも辛うじて肯くのを見届けてから、お父様を止めた理由を口にしました。
「辺境の地には辺境の地の法が有り、その法に基づいて今糾弾しておりますが、出来る事は処刑・国外追放以外の処罰までにございます。セイスルート辺境伯におきましては、お忘れなどという事はよもや無いとは思いますが、この糾弾の場にて情に引っ張られてしまったのだと思われます。冷静になられて下さいませ。王家に忠誠を誓っていないのは、我等セイスルート家のみでございます」
お父様は、表情には出さなかったけれど、目が左右に揺れました。……思い出してもらえましたか。
そうなのです。王家に忠誠を誓っていないのは、我がセイスルート家のみ。アウドラ男爵家は王家に忠誠を誓っているので、処刑や国外追放などの重い罰を与えるならば、王都で裁判を行う必要があります。そこまで重い処罰にしなければ、お父様が罰を与えるので構わないんですけどね……。
重い罰を与えるならば、間違いなくその罰が妥当な重い罪と国王陛下が認めなくてはなりません。……セイスルート家だけは、国王陛下が見ている所で裁判などしないですけど、それって身内だけのものですからね、結局。例えば私が(やらないですけど)陛下の命を狙って捕まっても、この国の法律で裁かれるより前に辺境伯家の法で裁かれる。
ややこしいけれど、王家に忠誠を誓っていないので、優先順位はウチの法。でもそれってウチのみ。アウドラ男爵は王家に忠誠を誓っているので、重い罰を与えるならばそれ相応の罪なのか、国王陛下立ち会いで裁判を開く必要がありますわよ、お父様。
絶対……忘れていたでしょうね。止めて良かった。バートンに指摘されて向こうの思う壺になる所でした。




