2度目。ーー闇に紛れて己を隠そうとする愚か者。・1
アウドラ男爵家を囲んだ影達とセイスルート家に仕える騎士達が、アウドラ男爵夫妻と嫡男バートン・令嬢シュゼットとミュゼットを拘束した事を聞いたのは夜明け頃だった。向こうも当然ながらアウドラ家に仕える騎士と兵士達が居て。抵抗に遭ったと報告を受けている。残念ながら、ウチの騎士達の方が実力は上だし、何より向こうには影の存在は片手程度。戦力の差というものだった。
「何故、私がこのような目に遭わねばならぬ! セイスルート! 我等は共にこの辺境の地を守るために肩を並べていたのでは無かったか!」
アウドラ男爵が囚われた格好でお父様に叫ぶ。この場には、お父様とお母様。お兄様とお姉様と私とロイスがきちんと立ち会っている。お母様とお姉様は混乱しているし、特にお姉様などバートンまで囚われたのだから真っ青な顔でお父様を見た。
「お父様! 何故、何故バートンまで!」
お姉様の縋る姿をお父様は一顧だにしない。お兄様は薄々勘付いていらっしゃったのだろう。表面上は落ち着いているし、ロイスは落ち着いているように見えるけれど青褪めた顔で一連の出来事を見守っている。お母様は縋るお姉様を宥めながら、自分の夫であるセイスルート辺境伯をジッと見た。そのお母様にもお父様は一顧だにしないので、お母様は何となく理解したようだ。お姉様と一歩下がって事態の成り行きを見る事を選択した。
「何故? それは貴様が解っているはずだ。違うか?」
お父様が静かに答える。けれど、その声は怒りを押し殺した低い声で、アウドラ男爵は怯んだ。寧ろ、平然としていたのは……やはりバートンの方。
「きちんとした理由も述べずに共にこの辺境の地を守ると決めた同志の我がアウドラ家に、随分な仕打ちをなさいますね」
淡々とした声のバートン。いつもと変わりない表情。こうなる事を予想していたとしか思えなかった。多分予想していたのだろう。バートンは、アウドラ男爵家ご自慢の優秀な息子。……実際、彼は頭の回転が速い。前回はあまり関わらなかったけれど、それでも話せば頭の回転が速いのは解った。今回は尚更。
でもね、バートン。
いくら頭の回転が速くても、全てがあなたの思い通りにはいかないんだよ。
私は、今回彼と関わる事で彼の本質に少しだけ触れる事が出来た。
彼は……バートンは、嗜虐性な所がある。弱い立場の者を巧みに破滅に押しやったり、助けを求められない立場に人を追い込んでから虐げたり。
デボラの話からもそれは確認出来たけれど、それだけでは彼の本質が分からないから弱っていた動物を彼の見える範囲に置いた。彼は嘲笑いながら、弱った動物の髭を切ったり毛を毟ったりしていた。それを確認してから私は、動物を拾いに行った。彼は私が疑っている事にも気付いたのに、何食わぬ顔で動物を心配した。……そういう人だと解った。
ちなみに、弱った動物は、私が謝りながら回復まで付きっきりで面倒を見て、そのまま何故かウチに居ついている。元々野生なので、元気になれば出て行くって思ったんだけど。
まぁ何にせよ、バートンの本質は少しだけ解ったし、バートンは私にそれを知られても何とも思っていない事が解った。
こういう相手は、情に訴える……みたいな作戦は全く効かないだろう。彼を追い詰めるには、別の対策を立てないとならない。




