2度目。ーー婚約解消を今度こそ避ける予定で動いたのですが。・2
それにしても、サラリと酷いですわよ、お父様。私の父なのに若くして死ぬ運命だなんて不吉な事を仰って……。まぁ脳筋ですからね。仕方ないですよね! 諦めます。
「話を戻しますが。私が日本人として生きていた頃、会った事は無いのですがドミトラル様も日本人として生きていたそうです」
「画家とやらが?」
「私はドミトラル様に会って日本人の記憶を思い出しましたが、ドミトラル様は前から日本人の記憶があるようでしたわね。それで前回の人生でドミトラル様に託した物を受け取る際にクルスに言葉を教えたのです」
お父様は良く分からないという顔をしたが、クルスはハッとして私を見た。
「サクラですか⁉︎」
「そう。日本では良く見られた春に咲く花でね。大木に淡いピンク色の花びらが咲くの。種類も沢山あるけど、一番知られている桜は、花が先に咲いて花が散った後に若葉を付けるの。だから桜が咲く春は淡いピンク色になった大木が彼方此方で見られたわ」
「そういった花なのですか……。確かにこの国では見ないですね。花と言えば薔薇や百合のようなものばかりで、大木に花が咲く事はあまりないですからね」
加えて言うなら大木に咲く花に淡いピンク色は一切無い。だからこの国には桜は無いのだ。クルスが感心したように頷いているのを見ながら私はもう一つ、混乱させるかもしれない、と思いながらもお父様達に話す事にした。
「ドミトラル様は、日本人だった頃、この国を舞台にしたゲームを作っていたそうです」
「ゲーム? チェスみたいなものか?」
「そうですね。どちらかと言えば、侍女達が好きな恋愛小説を元にしているものでしょうか。恋愛ゲームで、主人公の女の子が婚約者のいる王子や高位貴族の令息達と恋愛をするのです」
「……婚約者が居るのに、そんなバカなゲームをする王子などおるまい。高位貴族の令息にしたってそうだ」
「お父様の仰る事は尤もなのですが、ヒロインと呼ばれる女の子の主人公は、王子と結ばれますわね。大抵。物語ならばまぁ許されますけど。女性は身分違いの恋とか好きですもの。でも、それが本当だったとしたら?」
「物語では無いと?」
私の話を半信半疑で聞いていらっしゃるお父様は、鼻で笑われました。結局物語だろう、と考えていらっしゃるのでしょう。
「ドミトラル様が作られたゲームでは、ヒロインはロズベル様。そしてお相手は4人。その4人の中の誰かと恋をするゲームですが、1人目はヴィジェスト殿下。2人目はボレノー様。3人目はカッタート様。4人目はドミトラル様でした。そして前回の人生においてロズベル様は、ヴィジェスト殿下と恋仲になりましたの」
お父様は、流石に声を出ないようで暫し沈黙が訪れる。
「……ドミトラルという画家は未来が見える人間だったのか?」
やや擦れた声でお父様が問うので私は首を左右に振りました。
「偶然とは言いませんが、おそらく人ならざる者の介入は有ったのでしょう。その介入がどのようなものなのか、まではもちろん分かりませんわ。だってどんな存在なのか分からないのですから。ただ日本には魔法も無ければ騎士も居なかったのに、こちらには当たり前のように騎士がいて魔法がある。私から見れば当然でも日本人の私から見たら不思議。そういうことです」
「他方から見れば当たり前な事が不思議になる、か。それならば確かに人には見えない何かが介入したのかもしれないな」
「そうでなくては、私やヴィジェスト殿下がやり直しの人生を送っている事もおかしいですわ」
「……確かに。では、そういった存在が居ると思っておくことにしよう」
お父様……考える事を放棄されましたね? まぁ気持ちは分かりますけど。さて、私の秘密は話しましたが、問題は未だ解決していません。お姉様の婚約解消問題という難問が有りますわよ、お父様。




