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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
学園生活2年目は婚約者候補者とのガチバトル⁉︎
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2度目。ーー婚約解消を今度こそ避ける予定で動いたのですが。・1

執事が上手い事お姉様の気を逸らしてくれたので、その隙に着替えてお父様の元を訪れました。執務室ではなく鍛錬場です。……そうでしょうとも。父は書類仕事よりも身体を動かす方が大好きな脳筋ですから。当主なので仕方なく執事に厳しく指導されながら書類仕事を片付けているお人です。でもストレスを抱えると鍛錬場に逃げ込むんですよね。


当然今回の件でもストレスを抱えたのでしょう。ストレスになるのも分かりますけどね。何しろ婚約解消ですもの。その理由がねぇ……。理由ですからね。でもまぁ発想の転換って必要でしょう。デボラと共に鍛錬場を訪れた私は、お父様に決断を迫る事にしました。


「お父様、ただいま帰りました」


「……ああ。ご苦労だった。エルネン伯爵の件も」


剣を振っていたお父様が、私を振り返り休憩なのか、もう本日は止める事にしたのか、判断出来ないものの私の方へ歩いていらっしゃいました。


「お父様」


「全てを話せ」


私の決意に気付いたのか、お父様はそう仰ると執務室で待つように、と去って行かれました。お父様も覚悟を決めたという事でしょうか。では私も覚えている限りの前回のケイトリンの人生を話しましょう。執務室で待つ事暫し。着替えられたお父様の顔は、“セイスルート辺境伯”の顔でした。そうですか。お父様は“父”の顔で聞く気はないのですね。ならば私も娘ではなく、セイスルート辺境伯の跡取り候補として話しましょう。


「先ずは何からお話しましょうか」


そんな私の切り出しにお父様は「全てを」とだけ答えられた。その意思に従い、私は前回のケイトリンの人生を覚えている限り話しました。お姉様が婚約を解消された事も、隣国と小競り合いが有った事も、私が殺された時の事も、ドミトラル様とお会いした事も、ヴィジェスト殿下の婚約者だった事も。そして……


「アウドラ男爵家の事は最後は知りませんが、お父様は反旗を翻して来る事は予想していました」


「……そうか」


「はい」


「そうだろうな。……信じていたかったのだがな」


「お父様……」


「ケイト。辛い人生を送らせてすまなかった」


「いいえ。私はドミーに……ドミトラル様にお会い出来たから辛いだけではありませんでしたよ。正直なところ、2度目の人生を歩み始めた時は自分がおかしくなったのでは……と自分を疑っていましたが。それでもやり直せるなら、変えたいと思いました。やがてヴィジェスト殿下とお茶会をした時に、記憶があるような発言をされて、ようやく私は自分が2度目の人生を送っている事に確信を持ちましたけれど」


「そう思うのも無理はない。正直、自分もケイトが話している事がおかしいと思ってしまっているからな」


「そうでしょうね。荒唐無稽と思われても仕方ないでしょう」


「こうとう……?」


「いえ、お気になさらず」


うっかり四字熟語を出してしまい、お父様が首を傾げます。お父様が視線で話せ、と圧を掛けて来るので、クルスも呼んで、デボラとクルスにも聞かせるように私はお父様に話しました。最後の秘密です。


「私はケイトリン……1度目のケイトリン・セイスルートを生きる前に16〜18歳の時に死んだ日本人でした」


「ニホン?」


「この国でも隣国でも、一番大きな帝国でもない……この世界には無い国です。その国は戦争がなく、いえ、大昔はありましたが、戦争で負けて二度と戦争をしないと国の法律で定められた国でして。国王陛下と同じ方はいらっしゃいましたが、国王陛下とは違い自らは政治に関わりません。国の象徴として存在されています。国を動かすのは、宰相や大臣達でした。魔法は無い。移動手段は馬車ではなく、馬車より早い乗り物がある国で。そこで私は学校……こちらで言う学園に通っている身でした。身分は平民。向こうは大昔に身分制度が有ったものの、私が生まれる何十年も前に身分制度が無くなりました。だから国の象徴である方以外は皆平民ですね」


そこで一旦話すのを止める。喋り疲れたのと、お父様達が理解出来るのを待つために。


「宰相や大臣達も平民なのか?」


「そうですね。まぁ大昔は貴族だった家でした……って方もいらっしゃいますけど、あくまでも大昔で。基本的には平民です。それで国を良くしたいから文官になります、と立候補して、それを皆が支持するとその方は文官になり……出世して大臣や宰相になる形ですね。その文官を選ぶのも国民でした」


ザックリし過ぎているけど、高校生で人生終えた上に公民が苦手な私には、これくらいしか話せないので、あまり突っ込んで来ないで下さいね、お父様! 


「民が文官を選ぶ?」


「こちらのように文官になるための試験というより、如何に国を良くしたいかを皆に知ってもらってそれを支持されるか、ですかね。だから勉強が出来るだけではなく、文官になってから国をどうしたいか考えられないとダメなんです」


……多分、そういうこと、だったと思うんだけど違ったっけ? でもまぁ勉強だけじゃないのは確かだよね。


「ふむ。成る程な。国をどうしたいか、が必要なんだな」


「まぁそういうわけです。勉強は出来て当たり前でしたからね」


「そういうものか」


「そういう国で生きていた記憶があります。私が日本人として生きたのは18歳になってなかったかもしれないので……記憶がそこで途切れていますから。そうしてケイトリンとして生まれ変わって、ケイトリンの人生を送って。ドミトラル様にお会いした時に日本人の記憶が蘇ったのです。まさかその後日本人だった時のように18歳くらいで死ぬとは思いませんでしたけど。その上生き返って8歳からのケイトリンの人生をやり直すなんて思っていませんでしたけど」


「ケイトは……若くして死ぬ運命なのか?」


「そんな運命いりません。多分日本人だった時は事故だったんでしょうけど。前回は殺されましたから、今回は長生きするのが目標です」


お父様は、然も有らん、とばかりに深々と頷いた。

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