2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・20(ヴィジェスト編・結)
その後イルヴィル様にきっちりと仕返しをしてから(シュレン様とのお話が膝枕だけで終わったと思っていたらしいイルヴィル様が、済まなかったと潔く謝って来る内容を第三者に知られたいのですか? と脅してみました)私は城を後にしました。どうせイルヴィル様の手駒なのは変わらないし、この程度しか仕返しなんて出来ませんけどね。
やられたらやり返す。私の常識です。
それにしても、侍従長達はヴィジェスト殿下が2度目の人生を送っているって知っているのかしら? まぁ私には関係ないですね。さて。一度王都にあるウチの別邸へ立ち寄って王都の情報を仕入れてから帰る事にします。帰ったらお父様と色々話す必要が有りますし。……そろそろ隠しておけなくなりましたから、お父様にも2度目のケイトリンの人生を送っている話をするべきでしょうねぇ……。さすがに隠し通せるとは思いません。やらかしている自覚は有ります。
それにしても……ドミトラル様は何処にいらっしゃるのでしょう?
前回のケイトリンの人生では、ドミトラル様が国王に気に入られて王城に住まいを移したのは私が15歳の時。でもそれより2〜3年前には、将来有望な若き画家の1人として名が上がっていました。つまりそろそろ耳にしてもおかしくないのです。怖いので積極的に噂を集めていないものの、でも聞こえて来てもおかしくないはずなのに、聞こえて来ない……。
何処で何をしているの、ドミトラル様。
「お嬢様?」
「なぁに?」
「お嬢様は、前回でお会いになったという画家様をお慕いされて……?」
デボラに直接尋ねられれば、肯定するしかない。苦笑して頷いた。
「でも気になるけど、怖くて探せないの。だからこの件は今は置いといて」
「……かしこまりました」
デボラに言えばきっとドミトラル様の情報を得てくれる。でも、今は知りたいけれど知りたくなくて。気にしないで欲しい、とお願いした。……私のことを覚えていないだけならいい。でも、覚えていて私に会いたくない、と思われていたら……私はそれが怖くて探せない。
別邸に着くなり着替える前にクルスがお父様の手紙を差し出してきた。着替えてから読むことにして、デボラに手紙を預ける。動きやすいワンピースに着替え終わってからお父様の手紙に目を走らせて、ため息をついた。
「どうかしましたか?」
デボラが私のため息に反応した。その問いに答えるより前にクルスを呼ぶ。手紙の内容を知っているか確認して、2人に手紙の内容を話す事にした。
「端的に言えば、隣国との小競り合いは回避出来たわ」
「それはようございました」
デボラが喜ぶが、私は首を左右に振って、続きを話す。
「背後関係は、ね。エルネン伯爵の歪んだ正義感、だったわ」
「歪んだ……?」
デボラが首を傾げた。
「セイスルート家が王家に忠誠を誓わない事が、許せなかったらしいわ。クルスに頼んで、1度目のエルネン伯爵令嬢様の件をお父様に伝えてもらったでしょう? お父様は直ぐにエルネン伯爵家に影を送ったそうよ。あの家はその手の者に警戒心が無いみたいで、あっさりと証拠が見つかった。隣国に通じていたのね。隣国と言ってもコッネリ公爵のような大物ではなくて、まぁ小物みたいだけど。その小物にウチと小競り合いを起こすよう、唆す手紙だったみたい。要するに隣国と小競り合いを起こす事によって、ウチを攻撃するチャンスを作った。そして無理やり王家に忠誠を誓わせようとしたか、ウチを潰そうと考えたか。……前回はおそらく忠誠を誓わないくせに私が婚約者だった事が気に入らなくて排除しようと考えた、というところかしらね」
「それは確かに歪んだ正義感ですね」
「ええ。元々エルネン伯爵はウチが王家に忠誠を誓わない事に不満を抱いていたみたいで、お父様もそれに気付いていたから距離を置いていたみたい。それが今回のコレでしょう? 私がお茶会に居る間にイルヴィル様と結託してイルヴィル様に後を任せたらしいわ。で。イルヴィル様が後始末を付けたそうなの」
手際良すぎて怖いですわね。オマケに何も知らない私は、おそらく後始末を終えた直後のイルヴィル様をいびりましたからね……。まぁいっか。私の記憶を元にエルネン伯爵を捕らえたのでしょうし。
そうです。エルネン伯爵は、隣国と通じていた事で捕らえられました。マコッテ令嬢や奥方を連座にはしなかったようですけど。まぁ奥方のご実家に帰ってもお2人は針の筵状態でしょうからね。エルネン伯爵が何をしているか知らなかったから連座を避けられたのでしょうけど。
さて。どちらがマコッテ令嬢にとって良かったのかしらね? だって連座でも、連座にならなくても、どのみちヴィジェスト殿下の婚約者候補者からは外れますから。1度目のウチと隣国との小競り合い、多分マコッテ令嬢のヴィジェスト殿下に対する恋情をダシにして、エルネン伯爵の歪んだ正義感が炸裂した結果、だったのでしょうね……。




