2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・19(ヴィジェスト編)
「な、何のことやら」
目が綺麗に泳いでますけど! そんなんで騙されるか! 洗いざらい吐け!
「全部吐き出して下さい。私を試した理由は何?」
ヴィジェスト殿下を問い詰めれば、後ろめたそうな顔で種明かしをした。
「つまり?」
「ケイトリンの能力を知る名目だな」
話を聞いた私は非常に不愉快でした。
いや、最初はね。本気で見知らぬ侍従や侍女がいるって話に、侍従長と侍女長が怪しいと思ったんだけど。直ぐにそれはおかしいって思い直しましたよ。
そりゃあそうだ。見知らぬ者を問い質すのも面倒になる人数が居るって、何かを仕出かすならおかし過ぎる。普通はバレないように気を付けるもの。
それに気付かず侍従長と侍女長を怪しんだ自分が笑えるよね。阿呆は私だ。そして、ヴィジェスト殿下の説明を受けて、不愉快になった。
要するに私を筆頭候補者ではなく、婚約者の座に付けるために、どんな対応をするのか、という試験だというのだから。……考えたのはイルヴィル様辺りで国王陛下もご存知らしい。というか、まぁ国王陛下の許可無しじゃ出来ない事だもんね。
というか、本当に見知らぬ者達が多く居たら、侍従長や侍女長達がそれこそヴィジェスト殿下に訴えるか宰相辺りに訴えるよね。だからこそ“長”の資格を与えられているんだから。もっと早くそこに気付こうよ、私。……莫迦なのも私だ。
「事情は理解しました。つまりヴィジェスト殿下の体調が悪く見えたのも、この仕掛けの前段階だと」
「そうなるな」
「そうですか。まぁイルヴィル様への仕返しはきっちりさせて頂くとして、私はヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者の資格は引き受けましたが、婚約者になるつもりは毛頭有りません」
ここはきっちり言っておこう。
私が否定した途端に、ヴィジェスト殿下よりも侍従長や侍女長を含めた使用人達が「「「何故ですか!」」」と口々に問い質してきた。いや、なんでそんなに真剣⁉︎
「私には想う相手がおります。かの方と婚約出来る事を夢見ていますので、ヴィジェスト殿下の婚約者は遠慮致します」
「ま、まだ婚約は成立されていない、と?」
私の宣言に侍女長が縋って来る。まぁ2度目の人生では未だドミトラル様にお会いしていませんから、婚約はしてないですねー。……というか、ドミーが私の事を覚えているのか、覚えていても私の事を好きになってくれるのか、確かめるのが怖くて探してないんですけども。
「婚約はしていません」
取り敢えず侍女長の質問には肯定の返事をする。
「でしたら! 未だヴィジェスト殿下に可能性がある、ということですね!」
侍女長より冷静そうだった侍従長まで鬼気迫る様子で尋ねてくる。
「いやいや、可能性を考えないで下さい!」
私もついつい淑女に有るまじき、悲鳴混じりの大声で否定してしまった。だってそんな可能性、考えてほしくないですからね!
というより有りません! ヴィジェスト殿下の婚約者なんて嫌な思い出しか有りませんし、政略結婚になるから恋愛の情は不要かもしれないですが、私はドミトラル様と愛し愛される結婚がしたいですー!
取り敢えず、ヴィジェスト殿下が「ケイトリンはやりたい事があるそうだ。それが叶わなければ、その時に改めて婚約を申し込む」と使用人達を宥められた。改めても何も申し込まれてもお断りしますけどね!
兎にも角にも、ヴィジェスト殿下、体調不良の件は片付きました。……でも、結局セイスルート家と隣国との小競り合いを引き起こした(はずの)マコッテ・エルネン伯爵令嬢とのバトルは有耶無耶になってしまいました。……この決着を付けられる時が来るのかしら。




