1度目。ーー知りたくなかった真実と巻き込みたくなかった人。
コッネリ公爵は生誕祭が終了しても数日は滞在するらしい。その表向きの理由は互いの友好を深める目的、とのことだが。今まで友好国と言いながらもドライな関係だったでしょうに……疑って下さい、と言っているようなもの。まぁコッネリ公爵の腹黒さについては、ウチ以外にも隣国と付き合いのある貴族家は結構いるのでそういった家は警戒しているみたいだし、そんな中でコッネリ公爵自らが何かをやるとは思えない。とするなら、コッネリ公爵が滞在している事そのものが何かからの目眩しと考える方が自然かしら。
そんな事を考えながら屋敷でクルスを待つ。例のペンダントについて分かり次第報告するように告げてあるから登城する予定も無いし、今日は一日中屋敷に居る予定だった。
「お嬢様」
「クルスね。ご苦労様。何か分かった?」
「洗いざらい調べて来ました」
それからクルスの話を聞いた私は少しだけ考えて溜め息を吐き出すと、お父様へ手紙を書いてクルスに持たせる事にしました。
「それからクルス。そのペンダントはお父様が持っていても辺境から直ぐに出てこられないから私が信頼出来る方に預けます。万が一、私が不在の時にあなたがそのペンダントを必要とする場合、その方にあなたの名前を教えておきますから名乗りなさいな。あなたがその方を信頼出来るか不明だと言うならばその方にこの紙を見せなさい。この紙に書いてある文字は私とその方以外読めないはずです。逆に言えばこの文字を読めるその方は私が信頼している人だと思いなさいな」
「……これはなんて書いてあるのでしょうか?」
感情を一切見せないはずの影が珍しく困惑している感情を見せたのでクスリと笑いながら私は書かれている文字について教えた。
「どういう意味ですか?」
「この国には無い花の名前よ」
「この国には無い花? お嬢様はそんな花の存在をどこで……。そしてその方もその花の存在をご存知だと?」
「ええ。知っているわ。そして知っている理由は内緒。でもこの国には無い花の名前を言えるとしたらあなたも信頼して頂戴」
「……お嬢様の仰せのままに。こちらのペンダントはお嬢様にお返しします」
「ええ。……万が一の場合だからそうならない事を願って頂戴」
クルスは短く返事をしてお父様宛ての手紙を持って消えて行った。王都から辺境の領地までは、普通の人が馬車を使って5日かかるけれど、影は鍛え方が違うから馬車や馬を使わなくても片道がかなり早いのよね。辺境伯家の令嬢として剣を振るい拳を突き合わせる事は出来ても、あそこまで早くは動けないわねぇ……。
さて。巻き込みたくはないけれど、今の私が信頼出来る方はドミトラル様だけ。謝っても謝りきれないけれど彼以外にこのペンダントを預けられる適任者が居ないのだから。




