2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・10(ヴィジェスト編)
さすがに侯爵令嬢さんも彼女の言葉を否定するのは拙いと理解しているようで、顔を真っ赤にさせたまま黙り込みました。さてこうなるとプライドの高い彼女の口を再び開かせるのは、難しいです。至難の技とは言いませんけどね。どうしようかな。
……うん。まぁ彼女は後回しでいっか。
「学園での事を教えて下さりありがとうございました」
先程の伯爵令嬢さんに頭を下げると「いいえ」と答えつつ、何かを尋ねたいように口を開閉しています。私が促せば、彼女は意を決したように(見えました)キッと眦を上げて私を見据えました。あら。なんでしょう、この威圧感。
「セイスルート様は、何故隣国へ留学を?」
……え。意を決した表情で尋ねられるのがソレなんですか。
「お恥ずかしながら、先程の話題に出た姉の問題ですわ。お兄様から、お姉様の言動が酷くて困っている。特にケイトに虐められているという嘘を平然とつくから、入ったら苦労する、と伺いまして。お父様が他国に留学しても良い、と了承を得ましたのでいくつかの他国の学園を調べて、隣国にしただけですわ」
嘘は言ってない。全てを語っていないだけで。さて。伯爵令嬢さんは信じるかしらね?
「ああそういう事でしたか。少々不穏な噂を耳にしたものですから」
「不穏な噂、でございますか?」
ウチに関する、という事でしょうね。話の流れ的に。しかし彼女は以降口を開きません。曖昧な噂ということか。彼女の口の堅さを褒めるべきなのでしょうが、中途半端に口にされると気になりますね。でもまぁ諦めましょう。
「遅れて済まない」
タイミング良くと言うのか、悪くと言うのか。ヴィジェスト殿下登場ですので。ヴィジェスト殿下は各テーブルに足を向けてそのテーブル毎の令嬢方と会話を楽しみます。まぁ義務だから仕方ないわけですが、なんでしょう? 珍しく疲労が見受けられます。どうしたことやら。
私は我関せずを貫きつつ、伯爵令嬢さんの動向を気にしていたのですが、彼女は私の視線に気付いているのかいないのか、一心にヴィジェスト殿下を見つめています。
あらぁ? ヴィジェスト殿下を好ましく思っていらっしゃるのでしょうか? 熱量的に侯爵令嬢さんと同じくらいの熱量はありそうですけどね。……そうそう。忘れてはいけなかったですわ。メーブ子爵令嬢さんの様子も見ておきま……ん? あら、此方は随分冷めた目をヴィジェスト殿下に向けていますね。
冷めたと言っても冷ややかとは違って、何かを見定めるような観察する目です。これはもしや、ヴィジェスト殿下相手に商売でも始める気ですか? なんだか金払いの良さそうな買い手を探す商人の目にしか見えないんですけど。うーん。さすが商人の娘、という所なのかしら?
面白そうだから良いですけどね。ついでだから他のご令嬢達の視線も確認しておきましょうか。
ふむふむ。侯爵令嬢さんや伯爵令嬢さん並にヴィジェスト殿下へ熱量を帯びた視線は、2割。1割は冷静な観察眼。残り7割はヴィジェスト殿下そのものに対する熱量というより、熱量は有るものの一歩引いたような感じ。これは……第二とはいえ“王子”であるから、でしょうね。7割は“ヴィジェスト様本人の妻”ではなく“王子妃”を狙った視線、ですね。
という事は、私は9割のご令嬢方を一時的とはいえ、敵に回すことになるわけですか。厄介だわ。




