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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
学園生活2年目は婚約者候補者とのガチバトル⁉︎
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2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・6(ヴィジェスト編)

すっかり忘れていたとはいえ、仮にも筆頭婚約者候補者という存在。何もしないわけにはいかないよね……。ヴィジェスト殿下に手紙を書き書き。ドナンテル殿下とノクシオ殿下にも手紙を書き書き、が今日の予定のつもりだった。……いえね。別に学園から出されている課題を後回しにしようなんて思ってないですよ。ただ、一応手駒とはいえお手紙ひとつ出さないのはマズイですからね。


誰に対する言い訳か分からない事を考えながら、いつもなら私の目覚め時刻に合わせるようにやって来るデボラが来ない事を訝しんだ。着替え出来ないんだけど。……ドレスってコルセット付けるから嫌いで、普段は着脱しやすいワンピースなんだけど、それでも着替え出来ない。何故ならボタンが背中にあるタイプしか無いんだよ! 普通さ、ワンピースなんだから前にボタンが有るとか、頭から被るタイプが有るとか。


何故そういう着脱しやすいワンピースが無いのでしょうか、この国! 手芸は壊滅的な私だけど、いっそデザイナーに話して作ってもらうか。そんな事を思いながら待っていると現れたのは、別の侍女。まぁここまで待っても来ない時点でデボラに何かあった事は分かってた。急いで着替えて朝食は後回しにしよう。


「お父様の執務室に行けば良い?」


おはようございます、お嬢様。という侍女に挨拶を返してすかさず尋ねれば、侍女は「さすがですね、お嬢様」と苦笑して頷かれた。確か彼女はレインだったかしら。ありがとう、レインと微笑めば、レインは名前を覚えて頂きありがとうございます。と嬉しそうに笑ってくれた。やっぱり名前を覚えて声をかけるって当たり前だけど嬉しいよね。


さて。お父様の執務室に入るとデボラが暗い表情で挨拶をしてきた。私もお父様とデボラに挨拶をして、お父様の説明を待つ。お父様が仰ったのは一言だけだった。


「デボラの処分はお前に任す」


それ以外のことは言われない。……という事は。私はデボラに視線を向ける。デボラは相変わらず暗い表情で、でも私の視線を真っ直ぐに受け止めた。

そっか。

そうなのか。

デボラは決めてくれたんだ。


()()()()()()()()()()()()()


それならば私はデボラのその決意に応えなくちゃいけない。

私は記憶の底から、お父様から聞かされたことを思い出していた。


デボラが私の専属侍女に選ばれたのは、私がデボラを選んだからだった。その時の私は8歳より前だったから、前回のケイトリンの記憶など無かったけれど、それでも私が選んだからデボラが私付きになった。

その時に、デボラの素性。デボラがセイスルート家の情報を流していることを聞かされた。同時に変わってくれれば良いと見て見ぬフリをしているが、3年経っても無理みたいだから、解雇しようと思っている事も。


その全てを聞いて幼いなりに理解した上で、それでもデボラを選んだ。そうしてデボラを処分すると決めた時、デボラが私を主人として認めてくれたなら、私が処分する、とお父様に宣言した。年齢が1桁の私が何を生意気に……と今なら思う。それでも、その時の私は何の疑問も持たなかった。

デボラを罰することになるならば、それはきっと私の仕事になるだろう、と何故か確信していた。その確信が間違っていなかったのは、今日証明されている。


「デボラ」


「はい」


「あなたがした事は許されません。本来ならもっと早くに処分を下していた案件です」


「……はい」


デボラは気付いてる。デボラが何をしていたのか、私が知っていることに。


「どんな事情があれ、主家の情報を流す事は使用人としてあるまじき態度で、追放されて当然の行いです」


「……はい」


「ですが、あなたには温情が課されていました。一つは、私が成人するまでという期間。もう一つは、私を主人と認めること。このどちらも、あるいはどちらかが欠けていれば、温情は無くなっていました。温情をかけられた理由は、あなたが流していた情報があまり向こうの家に有用では無かったから、です」


デボラがハッとする。そんなまさか……と呟くが、私もお父様も聞かなかったことにした。その態度でデボラは気付いたのだろう。有用な情報は()()()()()()()()()()、と。

もちろん、他の者なら有用な情報が流されそうになった時点で追放していた。デボラに関しても、同情的だったお父様でも、追放処分を決めていた。私が止めても無駄だったはずだ。それでもデボラを処分しなかったのは、私が処分を決めるという言葉を信じていたわけじゃない。


デボラを密偵に寄越す程、向こうの家が我がセイスルート家の()()()()()()()()()()が知りたかったからだ。調べようにもウチの影の何人かは向こうに知られている。知られていない影でも、影特有の匂いみたいなものは気付かれるようで、尻尾を出さない。

だからデボラを泳がせていた。


そうこうしている間に、デボラが私に心から仕えることになった。それが現状。


「デボラ。あなたの処分は主人である私が下します。本来なら追放ですが、有用な情報が流れなかったので、それを加味して、あなたには3ヶ月間給金無しで働いてもらいます。それが不服であるならば、追放にします。それでも私に仕えますか」


私の処分に、デボラは泣いた。

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