2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・5(ヴィジェスト編)
帰宅してから一息ついた後で、私はデボラとクルスにイルヴィル殿下とヴィジェスト殿下の話を聞かせる。序でにイルヴィル殿下の駒になってしまった自分の迂闊さを呪いながらも、イルヴィル殿下に対する愚痴も溢して。
鬱憤を晴らした後でようやく2人の顔を見れば、2人共が微妙な顔をしている。
なんで?
「お嬢様……」
「なに?」
「非常に申し上げ難いのですが」
いつもはスッパリと切れ味鋭く私に意見をするデボラが、言い淀む。私は首を傾げてデボラを促せば、大きなため息の後で言い放つデボラ。
「お嬢様。お忘れのご様子ですが、そもそも隣国のドナンテル殿下及びノクシオ殿下の筆頭婚約者候補者にもさせられたばかりですよね⁉︎」
……。ん? ………………んん? んんんんんん?
オジョウサマ。オワスレノゴヨウスデスガ、ソモソモリンゴクノドナンテルデンカオヨビノクシオデンカノヒットウコンヤクシャコウホシャニモサセラレタバカリデスヨネ⁉︎
お嬢様。お忘れのご様子ですが、そもそも隣国のドナンテル殿下及びノクシオ殿下の筆頭婚約者候補者にもさせられたばかりですよね……
「あー!!! そうだったー!!!」
忘れてたっ! そうだった! 隣国の殿下方の筆頭婚約者候補者の立場を受け入れたんだったーっ! 道理で1年目終了から私が『友人』ではなく『筆頭婚約者候補者』だという噂が出回っているはずだよ!
私が自分で了承したんじゃないっ! うわぁあっ。私の莫迦! 阿呆! なんでこんな大事なことを忘れてたのよっ!
だって、結局、最後は私と無関係な話になるって思っていたんだもん!(誰に対する言い訳なんだろう……。そして子どもか)結局私って王族にとって程のいい駒の役割しか無いんだろうな。って思っていたから、忘れてた……。
「お嬢様……。本当に綺麗さっぱり忘れてたんですね……」
デボラとクルスの視線が痛い。思いっきり残念な子認定の目をしてる! うぐっ。反論出来ないっ。反論出来ないけど……でもやっぱり反論するっ!
「だって〜。どうせ、最終的には私には無関係になるって思ってたし。王族にとって私って丁度良い手駒なんだろうなって思ったし」
「つまり、不貞腐れて大事なことが頭からすっぽり抜けていた、と」
「うっ……」
私の言い訳にデボラがスッパリ切り捨ててくる。さすがデボラ。相変わらず主人である私にも容赦無い。両手を挙げてデボラサマに降参した。そんな私の様子にため息をついたデボラはそれ以上言わなかったが、クルスが吹き出した。……えっ? 吹き出した? つい2度見してしまうが、やっぱりクルスが笑ってた。
そんな私の視線に気付いたのか、クルスが慌てて真顔に戻るけど、珍しい物を見た私とデボラは顔を見合わせて、同時に笑い転げた。
「ああもう、仕方ないお嬢様ですね! しっかりしているようで、ぶっ飛んだことをやらかして、それでいてすっとぼけたことをやらかす。それがお嬢様の持ち味ですものね! このデボラ、お嬢様に一生ついていきますから、どれだけやらかしてもフォローしましょう!」
何気に酷いことを言いつつも、デボラがそう言ってくれたから私は頷く。きっと言葉通り、デボラは一生ついてきてくれるはず。
「自分も、お嬢様に一生お仕えします」
クルスの声に私は目を見開いた。影は基本的に当主に一生を捧げる。現在クルスが私の側に居るのは当主であるお父様に言われているからだ。当主にしか忠誠と生涯を捧げないのに、何を言っているのか、と驚いた。
「1度目のお嬢様にもお仕えしたのなら、これも自分の運命なのでしょう。ご当主様にきちんと認めてもらったら、これから先はお嬢様のためだけに仕えます」
セイスルート家始まって以来、影が当主以外に主を定めるのは過去に数える程度だが無かったわけじゃない。けれど、それはそうするに足る主だったからだ。私はまだまだクルスの生涯を受け入れるに足る主ではないはずなのに……。それでもクルスは、私を選ぶと言ってくれた。




