2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・4(ヴィジェスト編)
「では早速だが。3週間後に行われる恒例の婚約者候補者達との茶会は、例の侯爵家令嬢と対を成す席を用意する」
「かしこまりました」
「同時に彼女らの動向も君の目から確認して欲しい」
ん? 婚約者候補者達の動向?
「それは何故です?」
「まだ確信出来ないから話せない。確信出来次第話そう。それから君はジュストと共に隣国へ戻るだろう?」
「はい」
あ、良かった。忘れていらっしゃいませんでしたわね。
「その際、ケイトの出来る限りで構わないからロズベルの噂をかき集めて教えて欲しい。ジュストだと令嬢達の噂には詳しく無さそうだからな」
……別に構いませんが、王家の影を潜り込ませてますよね? 私が直ぐに返答しない意味に気付いたのか、ヴィジェスト殿下が声を潜めた。
「王家の影の腕前を信じていないわけでは無いが、不要な噂は影の判断で切り捨てられる。そして事務的な報告のみ。分かるか?」
影達の能力を疑っている、と思われたくないために声を潜められたわけですね。そして影の報告だけを信用しない点は評価出来ます。……本当に前回よりも王族らしくなられて。良い傾向ですね。
それにしても。不要な噂の方こそ必要としているとは……。ふむ。確かに不要だと判断された噂の中に真実が紛れ込んでいる事は有りますけれど。多分、殿下は其方を重要視されている。それこそ其方の噂こそが殿下が欲する情報が有ると確信しているご様子……。
いいでしょう。それならば真偽も怪しいような噂でもかき集めてご覧に入れましょう。
「かしこまりました。集めた噂はどのように?」
「辺境伯家自慢の影を通して頼みたい」
あら。ウチの影を褒めて下さいますか! 仕方ないですわね! そこまで仰るならウチの影を使いに致しますわよ!
私は、ヴィジェスト殿下に頭を下げて了承した。だって、ウチの影を褒められるって主人にとっては鼻が高い事じゃないですか! そんな事を言われたら……ねぇ。受け入れるしかないですわよね!
そんなわけで、イルヴィル殿下とヴィジェスト殿下兄弟との長くて濃いお茶会がようやく終わりを迎えました。ヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者という肩書きは荷が重いし、正直不要で無用で面倒くさい肩書きですけども。確かにロズベル様の一件や、私とヴィジェスト殿下に前回の生涯の記憶が保持されている事は、謎ですものね。
それを解きたいというヴィジェスト殿下の心意気は買いましょう。そのための協力もまぁ惜しまない事に致します。……あら? でももしかして私って結構チョロい女でしょうか。ううむ。冷静に考えてみると、ヴィジェスト殿下の掌で転がされたような気もしますわ……。いえ、ヴィジェスト殿下というよりも、イルヴィル殿下の掌の方がしっくり……
って、そういうことですか! イルヴィル殿下とヴィジェスト殿下の2段構えのお茶会は、私を王家側に取り込む為の……っ。くっ。悔しいですわ! 見事にイルヴィル殿下の掌の上で転がされてしまいましたわ! あの方、最初から私に隣国の情報を収集させる駒にする気でしたわね! 私がイルヴィル殿下の駒にならないように警戒していた事に気付いて、ヴィジェスト殿下という搦手を用意していらっしゃった、と!
……いいでしょう。今回は潔くヴィジェスト殿下、いえ、イルヴィル殿下の駒になって差し上げます。ですが、今回限りでしてよ? シュレン様に膝枕の一件は、本当に焦っていた事は理解していますから。一矢報いる事は出来た、と思っておきます。
ある意味私の自業自得ですが、まぁ手駒にされてしまった以上は、お望み通り働きましょう。




