2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・3(ヴィジェスト編)
「ロズベル様の謎を解きたい、というお気持ちは理解しました。ですが、それでも別に私が筆頭の座に着く必要は無いか、と」
「ケイトが筆頭の座に着かないと、侯爵家の令嬢がその座に着く」
「それはそうでございましょうね」
うっかり引き受けそうになったのでお断りしたら、ヴィジェスト殿下が溜め息をついてきました。……王族がそんな分かりやすい態度はまずくないですか?
「彼女は前回から苦手だ」
本音はそこですか。
「かの方は“侯爵家”を背負っていらっしゃるのだから仕方ないのでは?」
何しろヴィジェスト殿下世代の中ではかの方が一番位が上ですから。年齢は私の方が上だったんですけどね。年齢よりも爵位でものを見がちの方ですからね……。まぁある意味貴族らしい貴族、でしょうか。
「前回の……」
「はい」
「前回の私はその考え方が苦手だった。それを認めるとロズベルは私との婚姻など無理だ、と否定されているようで。あの令嬢は、ロズベルの存在を知らなかったから、婚約者であるケイトの事ばかり文句を言っていたが」
「まぁあの方らしいですわね」
言いにくそうにそんな事を話し出すヴィジェスト殿下に私はあっさりと肯く。
「あの方らしいって」
「私もよく“王家に忠誠も誓わない辺境伯家の娘が!”と言われました。身分を弁えよ、とか、私と殿下との不仲はかなり有名でしたから、殿下に見向きもされないお飾り婚約者とも」
ヴィジェスト殿下の問いに説明するように前回の彼女や周囲の噂話を伝えれば、ヴィジェスト殿下がまた俯いた。そんなに俯かれても、過ぎたこととしか言えないのですが……。
「……そんな彼女を筆頭の座には着けない。解るだろう?」
あら。きちんと謝るのは自己満足だ、と勉強されましたわね。正解の反応ですわ、殿下。
「ヴィジェスト殿下の仰りたいことは解りますが、だからこそ良い機会では?」
「何故」
「ボレノー様を隣国に留学させたのでしたら、ボレノー様にお任せする事に決めたのでございましょう?」
チラリと背後のボレノー様に視線を向ける。ボレノー様は、ハッとした表情を一瞬だけ垣間見せましたが、重々しく頷かれます。少しは感情を抑える事を覚えられたようで何よりですわ。
しかし、ヴィジェスト殿下に引き下がる気は無さそうです。不服そうな表情を浮かべていらっしゃいます。……第二王子とも有ろうお方がそのように表情を晒せば足元を掬われますが……。仕方ないですわね。落とし所を付けるために条件を提示致しましょうか。
「条件がございます」
「なんだ?」
「一つは当然ながら、あくまでも筆頭婚約者候補者であること。ですが、大々的に、つまり国内外へ筆頭婚約者候補者である事を発表しないで下さいませ。王太子殿下の時は、婚約者として決定し、王太子の位に着くまでは国内外に発表されないのとは違い、王子の場合は筆頭婚約者候補者であっても場合によっては発表する事が出来ますから。尤も大抵の場合は国内のみに留めて国外へは発表されませんが……。私は国内であっても発表されたくないので、噂に留めておける存在でいたいですわ」
「……分かった」
「そしてもう一つは、期限を決めて下さいませ。いくら噂程度の筆頭候補者であっても、長く殿下の側にいれば勘繰られますもの」
ヴィジェスト殿下が眉間に皺を作った。
「それは……難しい。1ヶ月や2ヶ月で解けるとは思えない」
「私もそんなに早く謎が解けるとは思っておりませんわ。私と殿下に前回の記憶が残っている事も謎と言えば謎ですから。……そうですね。半年……ではどうでしょう?」
私だってそんな簡単に解決するとは思っていない。そんなに簡単ならば私の時間が巻き戻っている理由もとうに解っていますわよ。
「半年……1年ではどうだ?」
「1年、ですか。かしこまりました。お引き受けいたしましょう。但し、1年後、謎が解けても解けずとも筆頭の座はおります。宜しいですね?」
「解った。その条件で頼む」
そんなわけで私、今日これよりヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者です。まぁ殆どを隣国で過ごしますけども。この方、そこをお忘れでは有りませんわよね?




