2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・2(ヴィジェスト編)
「ロズベルの事を覚えているだろう?」
「はい。まぁ。ヴィジェスト殿下最愛の恋人様のことですもの。側室に迎えられるのかしら? と思っていましたが、私との婚約を破棄する、とはっきり告げられていらっしゃったから正妃に迎えられるつもりなのか、と理解したお相手ですから」
此処でボレノー様とカッタート様の気配が揺れた。……いえ、違いますわね。私とヴィジェスト殿下の1度目の人生の話を始めた時からずっと揺れてはいました。ヴィジェスト殿下から何度かお聞きしていらっしゃるのでしょうが、何度聞いても信じられないのでしょう。
けれど、私とヴィジェスト殿下の話が噛み合っている事で半信半疑……或いは、私達が友人同士だから話を作り上げて遊んでいる、とでも思っていたのかもしれません。いえ、もっと踏み込んだことを考えて、私とヴィジェスト殿下が相思相愛の婚約者で、ただその事を未だ発表したくないから表向き友人として関係している……とでも考えていたのかもしれませんね。
だって私達の話はそれ程噛み合っているのですから。
1度死んで巻き戻った人生をやり直している。
なんて荒唐無稽な……ヴィジェスト殿下相手だから口にはしないものの、そう思っている事でしょう……話を信じるよりも、私達が話を作り上げていると考えた方がまだ納得出来るのでしょうね。
だからこそ、私がヴィジェスト殿下に対して多少不敬な物言いをしても、婚約者に迎えられる令嬢なのだろう、と見て見ぬフリをしていたのかもしれません。いえ、まぁそれでも不敬は咎めることだと思いますけれどね。
それが、私の口から『相思相愛の恋人』がいた、とはっきり告げられた。そりゃあ驚きに気配を揺らしますわねぇ。それは多分、今のヴィジェスト殿下ならば気付かれた事でしょう。前回のヴィジェスト殿下なら気付かなかったとは思いますけどね。でもヴィジェスト殿下は気にしないのか、スルーですわね。
「確かに前回の私はロズベルを愛し、君も……君だけでなく、国王陛下を始め色々な方に心配と迷惑をかけて、周囲が見えなかったな。それは今はきちんとすまなかった、と思っている」
「今のヴィジェスト殿下には関係ない事ですから」
「……そうだな。私の自己満足にしかならない謝罪だ。話を戻すが。そのロズベルが隣国に居るという話は知っているな?」
「はい」
「そのロズベルが問題なのだ」
「前回のロズベル様は、殿下と同い年でしたわね。ですが、今回のロズベル様は私よりも年上という話なのですが……」
「それは間違いない。何故か、ロズベルは私より4歳上として存在していた」
あっさりと肯定されました。……私、隣国のロズベル様は偽者説だったのですが。肯定されてしまっては……謎が更に増えましたわ。
「一体どういうこと、なのでしょうか?」
「それは私も分からない。その辺のことを探りたいとは思っているが、私に婚約者が出来てしまうと簡単に動けない。相手が居ないからこそ、私は身軽に動ける部分がある」
ヴィジェスト殿下がそこまで言って納得した。
「つまり、ロズベル様の謎を解きたいけれど、他の令嬢と婚約してしまえば、制約が出来る。だから婚約者は作りたくない。けれど、国王陛下か……いえ、王太子殿下辺りがそろそろ婚約者を決めろと仰った?」
「そうだ。さすが良く分かったな」
「イルヴィル様なら、そう仰るでしょうね。ヴィジェスト殿下に口うるさく言いますが、イルヴィル様はヴィジェスト殿下を弟として可愛がっていましたから。……となると、イルヴィル様との話し合いで、せめて筆頭婚約者候補者を作れ、ということで話し合いに決着をつけましたか?」
「その通りだ。本当にケイトは兄上と仲が良かったんだな」
「ヴィジェスト殿下に蔑ろにされていた私をシュレン様共々気にして下さっていましたから」
私の言葉にヴィジェスト殿下は、申し訳なさそうに俯いた。……でも、そんなに申し訳なく思わなくても宜しいですよ? おかげで私はドミトラル様に会えましたから。
でもまぁそういうことならば、確かに私以外に筆頭の座には着けませんわね……。仕方ない。受け入れるしかないでしょうね。……いえでも、尚早な決断かしら。




