2度目。ーー胃が痛むのが先か不敬で咎められるのが先か。・3
「では……私を好きだったわけではない、と?」
何故か衝撃を受けたような表情のヴィジェスト殿下に私は首を傾げつつ、本音を零す。過去のことだ。
「顔合わせまでは好きも嫌いも有りませんでした」
「顔合わせまでは?」
「顔合わせで殿下に一目惚れ致しましたから」
ヴィジェスト殿下の聞き咎める発言に、私は首肯して思い出す。思い出さなくてはならない程、もう昔のことで懐かしいこと。
「では、私を好いてくれた、と?」
ん? なんでこの方ちょっと嬉しそうなのかしら?
「顔合わせの時は」
「顔合わせの時限定か?」
「暫くはお慕いしておりましたが、顔合わせから1年が過ぎた頃、此方で仲睦まじく肩を寄せて語らい合う殿下と想い人様のご様子を垣間見て、諦めましたが」
……というか、何故私は1日で兄弟に失恋話をすることになっているのでしょう?
まぁいいですけど。そして何故ヴィジェスト殿下は顔色が変わっているんです?
「諦め……えっ? では何故私を助けたのだ?」
1度目の最後の件でしょうか?
「それならばあの時は殿下がお命を狙われているように見えた事で、咄嗟に殿下をお守りせねばならない、と判断しただけですわ。王子妃教育では国王陛下の命が1番。次いで陛下のお子様方の命が2番。王族の命が3番と命に順位がある事を聞かされます。婚約者の私と殿下では……殿下の命が優先されるのは当然ですわ」
ただそれだけのこと。
婚姻していたとしても、王妃と王太子ならば王太子が上だし、王太子と王太子妃ならば王太子が上だし、第二王子と王太子妃ならばやはり第二王子が上。王妃と王太子妃ならば王妃が上で、王太子妃と第二王子妃ならば王太子妃が上。
ましてや私はただの婚約者だった。
あの時あの場で我が国の王族のみに限って言うならば、国王陛下・王太子殿下・第二王子殿下・王妃・王太子婚約者・第二王子婚約者の中で、1番命の価値が低かったのは、私だった。それだけ。
日本人だった頃の記憶が有る私からすれば、命に順位なんて無いけれど、この世界・この国の常識で考えるならば、私が1番低かった。あの時はそんな事まで考えられなかったけれど、結局そういうことだった。
「だが、私を好きだから命を賭してくれたのでは?」
ヴィジェスト殿下が焦燥感を醸し出しながら言い募る。
「私は殿下の婚約者で有りながら、胸に別の方を恋しく思う気持ちを秘めておりました。ですから、あの時は本当に咄嗟の反応でした。それだけですわ」
私は仕方なく真実を話した。あの時、最後の最期で思い出したのは、ドミトラル様でした。ヴィジェスト殿下では無かった。それが伝わったのでしょうか。ヴィジェスト殿下が蒼白な顔色で、私をジッと見ていました。
……何かお気に触るようなことを口にしたかしら?




