2度目。ーー胃が痛むのが先か不敬で咎められるのが先か。・2
「ようこそ、ケイト」
「ご無沙汰しております、ヴィジェスト殿下」
「ヴィジーで良いって言ったのに」
いやいやいや。ヴィジェスト殿下が私を愛称で呼んだとしても(いくら忠誠を誓ってなくてもこれくらいで逆らう気はないよ)私が愛称を呼ぶ必要は無いよね? 友人だとしても精々“ヴィジェスト様”なんですけど。
「いいえ。私はあくまでも『友人』ですから。誤解を招くような言動は慎みたいと思いますわ」
此処は確か前回、ヴィジェスト殿下がロズベル様と良くお会いしていたヴィジェスト殿下の住まう第二王子宮入り口の庭園。……何故此処に連れて来られたのかしら、私。しかし四阿には既にお茶の支度がされているらしい。……お腹がタプタプになりそうだから、少しだけにしておこう。
さて。ヴィジェスト殿下の護衛を兼ねて背後で控えていらっしゃるのは……ライル・カッタート様ですわね。男爵位のお父上は騎士団の中で団長・副団長から信頼が厚かった。それ故にライル様も騎士団に入って直ぐから、2人に目を掛けられていた人ーー。男爵家の次男だから兄のスペアで有りながらも、その役目を果たさない場合……つまり長男の方がきちんと男爵位を継いだ場合の事を考えて騎士を目指した方。攻略対象最後の1人ですわね。
ジュスト・ボレノー様はお父上が伯爵位で有りながら宰相を務める程の切れ者として評判が良い方。近々侯爵に陞爵されるとのお話です。この辺は前回と変わらないですわね。ボレノー家が侯爵位に陞爵したのは来年でしたもの。本当ならば今年陞爵される予定が、隣国と辺境領で小競り合いが有ったために、来年に持ち越しになりましたわ。よく覚えております。陞爵なんて中々に無い事が先延ばしにされたのですもの。
「ケイト。遠慮せずに手を伸ばしてね」
挨拶を終えた私にヴィジェスト殿下は気軽にそう仰るが。これ以上お茶もお菓子も要らない。嫌がらせでしょうかね。
「頂きます」
とりあえず勧められたからには食べねばなりません。菓子に手を伸ばして一口咀嚼後、一口お茶を含んでから用件は何か、修飾しながら尋ねます。
「ケイトは、前回の記憶が有るわけだ」
あらあらまぁまぁ。直球でその話題をされますか。まぁ良いですけどね。
「……はい」
否定しても話が進まないだろうし、素直に頷いておきましょう。
「何故、今回は私の婚約者という立場を選ばない? 前回は王家からの打診に頷いただろう?」
今更それをお尋ねになられます? 相変わらずなんていうか、坊ちゃん坊ちゃんした思考の持ち主ですわね。
「前回は……私の暴走が原因でしたから」
「暴走?」
「私の狭い視野では、国王陛下に何か弱味を握られているらしいお父様が、のらりくらりとかわしている姿を見て、私のためにお父様が窮地に落とされているように見受けられましたの」
「だから婚約話を受け入れた?」
「私が、勝手に、ですわ」
お父様の意思を全く確認せずに、です。これ、王都の貴族令嬢達からすれば、有り得ない事だろうな、とは思います。普通は当主である父上の意向無くして勝手をするなど、説教か謹慎かそういった類の案件でしょうから。私は幸いと言うのか、まぁ辺境伯家の娘ですから王都の貴族令嬢とは違い、責任さえ持てば自由な言動を許されていました。
多分、そういった事も含めてセイスルート家当主の選考だったのでしょうけれど。
責任無くして自由は無い。それが我が父・セイスルート辺境伯の考え方なのだと思います。




