記念話〜佐々木透の思い出〜
お待たせしました。
前話が100話だったので、記念話にするか、続きを書くか悩み……記念話にしました。
ドミトラルの前世話です。
「佐々木」
「はい」
「背景」
俺の名前は佐々木透。現在乙女ゲーム製作に携わり背景担当中。普段は育成ゲーム製作に携わっていてそちらはキャラクターデザインを担当。総指揮の先輩から尋ねられ背景を見せればOKを貰えた。
取り敢えず安堵する。
普段は乙女ゲームに関わらない俺が、今回何故この乙女ゲームに参加させられているのか、といえば。シナリオが問題なのだ。
昨今様々な乙女ゲームが出ているからか、ユーザーが飽きてくる事も多いらしく、今回は目新しくなるように……という上層部の方針で。R18ゲーム担当のシナリオライターが女子中高生向けの乙女ゲームを手掛ける事になった。……いいのかソレ? って思うが、まぁ上層部の判断。一介の勤め人である俺が口出しすることじゃない。
但し、そのシナリオライターが俺の(学生時代からの)先輩ということで、先輩から直々に俺に声がかかってこの乙女ゲームに参加させられているのだ。正直、乙女ゲームの何が面白いのか俺には分からない。
恋愛から久しく遠ざかっている所為もあるが、普通にヒロインに共感出来ないのだ。今回のシナリオもそうなのだが、メインヒーローである第二王子・ヴィジェストには婚約者がいる設定だ。この婚約者が所謂悪役令嬢なのだが……。
悪役令嬢のケイトリン・セイスルートは辺境伯の娘で、ヴィジェストの婚約者。ヒロインであるロズベルを苛める役どころ。ちなみに苛めは定番の教科書汚し・ドレス汚し・私物を盗む・嫌味を言う。階段落ち? 定番だが無い。というか、苛める内容すら右に倣えでは面白くも無いとのことで、敢えて階段落ちは失くした。
となると、教科書とドレスを汚して私物を盗むのは良くないが、嫌味を言うくらいは何もおかしくない。というか至極当然の権利だと思うのだが。それなのに悪役令嬢というだけで、ユーザーからは嫌われる立場。共感が出来ない。
抑、婚約者とは結婚を約束している間柄の関係を指す。只の恋人同士。もっと軽く言えば、只のカレカノの間柄じゃない。将来はまだ考えていない2人とかじゃない。結婚が前提となっている間柄。しかも王家と辺境伯家の家同士の婚約。つまり一家の主が認めた関係ってやつだ。その2人の間に割り込むのがヒロイン。主人公だから当然なんだけど、これ現実だったら結婚秒読みの2人に横槍入れてるのと同じ。
しかも横槍が入った途端に男はその横槍娘に惚れる。……浮気だろ? 現実だったら絶対浮気した男とその浮気相手を許さないだろ? 女子中高生でも、カレシが浮気したら許せないだろ? それなのになんで乙女ゲームだと許せるんだ? ヒロインに感情移入して悪役令嬢を罵倒する?
とても共感出来ない。
嫌味くらい当然だろうに。何故それが許せないのか大いに謎。その所為で俺は乙女ゲームに関わるのはこれっきりだろうな、と自分で思っている。
そのケイトリン。ヴィジェストルートをユーザーが選ぶと、ヒロインを苛めた事を責められて娼館行きになるバッドエンドだ。……これが先輩のシナリオである。女子中高生相手に悪役とはいえ令嬢を娼館行きにするって、それはありなのか? って話だが、その程度なら寧ろスパイスになるという上層部の判断により、認められた。そういう意味では、変革を求める上層部の方針に先輩は上手く応えたのだろう。ちなみに、隠しキャラであるイルヴィル第一王子ルートは国外追放。処刑は無い。それも敢えて無しにする上層部の方針らしい。
なんとかカタチになって配信出来たその日の夜、シナリオを手掛けた先輩と飲みに行った。そこでケイトリンの今後を先輩と色々語り合った。先輩も実は悪役令嬢の存在に納得が行かないらしい。いや、乙女ゲームの醍醐味の一つが、悪役令嬢の断罪なのだろうけれど。その断罪も先輩はあまり好きじゃない。とこぼしていた。
きっと、俺も先輩も乙女ゲームに関わるのは、これが最初で最後だろうな、と思う。
ちなみに先輩は悪役令嬢の何が納得出来ないか、と言えば。そのものズバリ“悪役”だ。悪役なのだから悪い役どころを担った人。そういうこと。つまり悪い役を演じるのが悪役。それなのに世の乙女ゲームの殆どは、悪い役を演じている令嬢ではなく、悪い性格の令嬢。
だったら“悪役”ではなく“悪人”だろう。役ではなく本当の性格悪い令嬢としてキャラ設定をすれば良い。
先輩はずっとそう思っていたらしい。ただ、誰にも共感してもらえない気がして、胸の裡を話してこなかった、と呟いた。悪人ではなく悪役。悪役という言葉が正しい風潮に疑問を抱いている、と。
そんな俺達だからこそ、バッドエンド後……つまり娼館行きになったケイトリンのその後を語りまくった。娼婦として成り上がるとか、娼館で最初に買ってもらった男にやがて身請けされて男の愛妾若しくは妻になるとか。或いは他国の王子に偶然出会って身請けされるとか。
まぁ好き放題言っていた自覚はあった。でも俺も先輩も悪役令嬢のケイトリンには、幸せになってもらいたかった。そんな気持ちでいっぱいだった。
だからだろうか。
まさか過労死した俺が、最初で最後に関わった乙女ゲームの世界に転生してしまい、悪役令嬢ケイトリンに出会う事になったのは。
攻略対象の俺だけど、ケイトリンの幸せを願うくらい、いいよな?
ラストは透が生まれ変わり1度目のドミトラルの人生で終わりました。
以上、記念話でした。次話は前話の続きです。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




