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1度目。ーー不穏の影がはっきりと象り出した日。

本文中に「不干渉で居ようと約した」という文章が出てきますが、約束でも契約でもなく約したで有っています。

早朝情報が届けられてお父様の密書第2弾にはやはりコッネリ公爵が隣国から使者として訪れる事が伝えられている。そして相変わらず武器が密かに準備されているよう。隣国には王家だけでなく我が辺境伯家も影を放っているからその動向はある程度早くに分かるけれど。だからこそ表面上はいつもと変わらない王家の皆様の胆力に舌を巻く。


「王子妃教育もそろそろ終わるからヴィジェストと交流をもっと深めて」


と仰る王妃殿下に逆らえるわけもなく殿下の部屋を訪れようとして……私はまた見てしまった。プラチナの髪が太陽の光で反射しているその女性の後ろ姿を。恋人が訪れているのに私が行っても仕方ない。そもそもお互いに不干渉で居ようと約したのだから行く必要も無いだろう、と踵を返そうとしたところで前方に何か落ちているのが見えた。

近づいてみるとそれは随分と年季の入ったペンダント。ロケットペンダントというもので何気なく中を開けてみて一瞬だけ動揺してしまう。それから何も無かった素振りで人の気配を探るが私の護衛以外(王家の護衛ではなく辺境伯家の護衛が別にいる)気配は無い。そのペンダントを掌に握り込むと予定通り踵を返した。


このペンダントは態と落としたとは思えない。となれば気付けば直ぐに探すだろう。持ち主は分かっているがそれでも簡単に返すわけにはいかない代物。直ぐにも屋敷に帰りたいが急ぐと目立つ。さてどうしよう……と悩みながら無意識のうちにいつもあの方と会う庭園に足を向けていた。


「ケイト?」


いつものようにドミーはそこにいて、私が現れた事に驚いている。そうね。今日は会う予定の日ではなかったもの。


「ドミトラル様」


「……どうした? 何かあったか?」


ドミーは真剣な顔で私の言葉を待っていた。


「何故でしょう?」


「顔に出てるよ。何かあったって」


おかしいですね。淑女として王子妃(予定)として表情には出さないようにしているのですが。私が首を傾げるとフッと笑って仕方ないなぁとばかりに言葉を変えた。


「まぁ俺で役立つならその時は言ってくれ」


こういう優しさがこの方にはあって。だからどうしたってドミトラル様に向かってしまう気持ちをどうやって止めたら良いのでしょうか。


「ドミー」


「ん?」


「ケイトではなくてケイティって呼んで下さいませんか?」


「何故?」


「ドミーにはそう呼ばれたいんです」


「いいよ。ケイティ」


その瞬間、私は自分の名前が大好きになって自惚れでなければドミトラル様の声も優しくて甘くて。思わず「好きです」と想いがこぼれ落ちてしまいそうでした。


「ありがとうございます、ドミー」


「じゃあ俺もドミーじゃなくてトラルって呼んで欲しいな」


「トラル」


「ん」


そこからお互い黙ってしまったけれど居心地は悪くなくて。この方の隣にずっといられたらそれを幸せと言うのではないか、とも思ったけれど。現実はそんなわけにはいかなくて。私は「帰りますわ」と挨拶をした。国王のお抱え画家だから城に滞在しているドミトラル様。だからいつもは見送るだけなのに。


「馬車まで送るよ」


何故今日に限って……いえこの手の中にあるロケットペンダントを拾ってしまった今日だからこそ、そう仰って下さったのかもしれない。でもその気持ちだけで充分。私は首を左右に振って踵を返す。ドミトラル様にお会いして心は定まった。


ーー私はケイトリン・セイスルート。

セイスルート辺境伯家の娘。

国と民に忠誠を誓う者。



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