学校〈ショート・ショート〉
青い天井が輝いている真昼、必死に考えをしている二人の影がそこにあった。
「明日から学校か」
「しかし、どうにか休めないものか」
実は、前日までの大嵐で仕方なくの臨時休校だったのが、明日から再開だと連絡が回ってきたのだ。
「本当ならば嵐の前にするべきだった、生物観察をしてくるという課題を終わらせていない。実は、皆も同じのようだ」
「特に理科の先生は恐ろしい。皆やっていない、と言えばどんな罰が与えられるか分かったものじゃない」
「しかし、揃いも揃って狡休みする訳にも行かないだろう」
お互い、頭が不安と思索で溢れているとき、一方がひらめいた。
「そうだ、君はスイミーを知っているか」
「勿論知っている。が、まさか、スイミーでも模して、大勢で一斉に逃げれば良い、と言うのではないだろうな」
「まあ、馬鹿な暢気の作戦と言えばそうだ。けれど、普段はしっかりと登校しているのだから、明日一日ならこんな作戦をしでかしても多くは叱られないのではないだろうか」
「とんでもない、翌日大目玉だ」
「しかし、それ以外に何がある」
二人は少しの間黙り込んでしまった。他に宛があるわけでもない。
「そうだ、全員で生物観察をしに行くのはどうだろうか」
翌日の朝、二人の先導する暢気の作戦が生物観察へ出発した。そうして、学校に行くことをを放棄してしまった。
勿論、学校と保護者は、大変な騒ぎになっていた。
「確認したところ、全員朝早くにこちらへ出発したようです」
「なのに誰も来ないのはどういうことなのか。道中で誘拐でもされたのではなかろうか」
「まさか。こんな大勢が一斉に誘拐されるとは思えません」
「警察にも連絡して、捜索願を出していますが、一向に見つかる気配がありません」
教師は、恐ろしい勢いで寄せられる保護者からの苦情処理に当たる者、そして生徒の捜索に当たる者の二手に分かれ、動くので精一杯だった。
「子供が登校中に消えたらしいじゃないの。これは一体どういうことなの。もし私の息子に何かあったらどうしてくれるの」
担任だから仕方が無いとはいえ、朝から何回この言葉を聞いたのかもう分からなくなってきた。私たちの方がそれを知りたいくらいだが、体裁上、正式に謝らなければならない。どうせ、明日になれば保護者説明会でも開かれて、特に立場上、保護者から強く責任を問われ、何十回何百回と謝罪させられるのが目に見えている。この一件で、私は何もせずとも信用を失い、地位を失うに決まっている。ただ、このクラスの担任を受け持っていただけなのに、だ。無性に腹が立ってきた。これもすべてあいつらのせい。あいつらが、ただいつも通り学校に来れば何事もない、平穏な学校生活があったのに。
「もし見つけたら大目玉どころでは済ますまい……」
時刻は正午を回った。暢気の作戦は名の通り、ゆったりと生物観察を続けていた。どうやら珍しい虫を見つけたらしく、皆がそれに集まっている。
ちょうど、その近くを通りかかった保育園の一団がいた。
「先生、見て、見て。ほら、あの子たち。」
「あら、めだかの学校、ね。皆も来年は小学校なのだから、この子達のようにきちんとしないと……」