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ここから第3章です。
アンリたちが中等科学園に入学して、半年が経った。もう半年なのか、まだ半年なのかは人によって意見の分かれるところかもしれない。
少なくともアンリにとっては魔法研究部の設立やら、首都での体験カリキュラムやら、結局逃れられなかった教養科目の補習やらと、充実した半年だった。もう半年も経ったのかと、学園入口の掲示板を眺めながら思う。
「アンリ君、おはよう。何見てるの?」
「おはようエリック」
掲示板の前で立ち止まっていたアンリは横に並んだクラスメイトのエリックに、掲示板に貼られた派手なポスターを指し示した。
「これ、何かと思って」
「ああ、交流大会で出し物をする有志団体のメンバー募集ポスターだよね。興味あるの?」
ポスターには大きく「一年生の皆さん! 入学から半年が経ちました。学園生活にはもう慣れましたか? 楽しい学園生活をもっと楽しくするために、私たちと交流大会を盛り上げましょう!」と書いてある。詳細は、と書かれた後ろには三人分の名前が並んでいて、名前の後ろに所属クラスが続く。全員二年生だ。そしてそのうちの一人は、アンリの知っている名前だった。
「興味あるっていうか……交流大会って、なに?」
「え、そこから?」
エリックの呆れた声に、アンリは正直に頷いた。学園で半年暮らしてだいぶ慣れてきたとはいうものの、元々持っている情報量の差はなかなか埋められない。
「ええっと、交流大会っていうのはね……」
「あれ? もしかして、アンリ君?」
エリックが説明を始めようとした矢先、二人の後ろから声がかかった。振り返ると、赤みがかった長い金髪が印象的な可愛らしい上級生が、にこにことアンリを見つめている。
「サニアさん」
「お久しぶり。体験カリキュラムのとき以来かな? 元気にしてた?」
体験カリキュラムで野外活動を共にしてアンリの立場を知ったサニア・パルトリ。学年がひとつ違う彼女とは、学園に戻ると会う機会などほとんどなかった。
「お久しぶりです。サニアさんも、お元気そうで」
「そうね、おかげさまで。ねえ、アンリ君。そのポスター興味ある?」
上機嫌に微笑む彼女は、アンリの後ろの掲示板を指差した。あ、いや……とアンリは口ごもる。下手に興味のある素振りを見せてはいけないと直感が告げていた。
「アンリ君なら……」
「い、いえ! ちょっと気になっただけなので。俺、もう行きますね。友達が待ってるんで。行こう、エリック」
呆気にとられたエリックを急がせて、アンリは教室へ向かった。サニアとの再会を楽しみたい気持ちもあったが、その結果、面倒事を押し付けられるのではたまらない。
「……アンリ君、さっきの人って、二年生のサニア・パルトリさん?」
廊下を曲がって完全に彼女の気配から逃げ切ったあたりで、エリックが口を開いた。エリックは体験カリキュラムに参加していない。にもかかわらずサニアの名前を知っていることが意外で、アンリは首を傾げた。
「そうだけど。知り合い?」
「違うよ。でも、有名人だから」
有名人と聞いてアンリは、サニアが成績上位者であったことを思い出す。アイラがそうであったように、ある程度成績の良い生徒というのは、人に名が知られているのだろう。とはいえ、学年を越えて自身の魔法力をひけらかす機会がそうそうあるとも思えない。
「そういう噂って、どこで生まれるんだ?」
「色々だけど……サニアさんの場合は、実家が有名なんだよ。パルトリチョコレートって知らない?」
え、とアンリは間抜けに口を開いた。国内で一、二を争う菓子メーカーだ。知らないはずがない。ましてパルトリチョコレートと言えば、アンリの好物であるココアの製造、販売元だ。
「よく聞く名字だとは思っていたけれど」
「パルトリなんて、名前としては珍しいと思うよ。メーカー名としてよく聞くだけじゃないかな。彼女のお祖父さんがあの会社の社長さんで、お父さんは次期社長さん」
ぽかんと口を開けてかたまったアンリに、エリックは苦笑する。
エリックによると、娘といっても上に兄が三人と姉が一人いる末っ子で、会社の跡継ぎとは認識されていないらしい。将来は家を出て自立しようという気概があって、魔法を含めた一通りの勉学で優良な成績をおさめているほか、課外活動にも積極的だという。
「たとえば、さっきの交流大会のポスターとかね」
なるほど、とアンリは頷く。
先ほどの掲示板でアンリが見ていたポスター。最初にアンリがそれに目を向けたきっかけは、サニアの名前だ。内容についてはよくわからないが、詳細の問い合わせ先に設定された二年生三人のうちの一人がサニアだった。
「そういえば、交流大会ってなんなの?」
途中で終わってしまった会話の続きを求めると、エリックも「ああそうだったね」と説明を再開してくれた。




