(49)
協議会は無事に終わった。
アンリたち実習生が見学できたのは全体のうちのごくわずかで、実習生たちの参加した研究に限ってのことだった。それでも防衛局のトップとも言える重要人物たちが集まって研究内容について議論を交わすさまに、心をときめかした中等科学園生たちは多かったようだ。
終了後、研究部もいいなと口々に感想を述べ合う学園生たちを前に、ミルナは得意げに胸をそらせていた。
そのミルナが協議会に出した案件は、やはりあの腕輪だった。アンリの知らぬ間に迎撃回数が一回から三回に増えている。見本品の腕輪には、アンリの渡したドラゴンの鱗入りの魔力石がはめ込まれていた。あのタイミングで渡した魔力石を、数日で協議会に間に合わせるとは……アンリは改めてミルナの研究者としての能力の高さに感服する。
マグネシオン家の私設研究所で作られた魔法無効化装置は、実習生の退席後に協議会に出されたらしい。アンリは協議会での話を聞く事ができなかったが、後から聞いた話によれば、概ね好意的に受け止められたということだ。これまでの魔法無効化装置と区別して「魔力放出無効化装置」との名前が付けられたらしい。協議会後に会ったマグネシオン家当主が、嬉しそうに報告してくれた。
「アンリ君の提案してくれた空間作用型の魔法器具も、開発の許可が下りたよ。うちの研究所と防衛局との共同研究になる」
協力しやすくなるだろう? と彼は笑いながらアンリの肩を叩いた。そうでなくても協力はするつもりでしたけれどと、アンリは笑って返す。
ほかにも軍事機密となる案件がいくつか協議に出たようだが、それはアンリの知るところではない。完全に実用化すればアンリの手元にも届くかもしれないが、ずいぶん先の話になるだろう。今回の協議会の案件だなどと、アンリが知る由もない。
こうして協議会が終わり、研究室での実習も終了し。体験カリキュラムも、残すは最後の野外活動のみとなった。
体験カリキュラムの最後の五日間は、最初と同様の課外活動だった。最初と違うのは、班別ではなく全員まとまっての活動となったこと。そして全員が研究室での実習を受けて、採取した素材を活用するということについてある程度実感しているということだった。
「場所は黒深林の端よ。全員で泊まれる小屋があるから、そこで過ごすことになるわ。最初の五日間のときにその辺りで素材の採取をした人にはつまらないかもしれないけれど……でも、きっとこれまでの研究活動を踏まえて、新しい発見があるはずよ。頑張ってね」
ちなみに当初の予定では、この野外活動は黒深林ではなく、まったく別のところへ出向くはずだった。全体行動でもなく班別で。それがドラゴンだの臨時の協議会だのと色々あって、準備期間が足りないからと近場で済ませることにしたそうだ。
そんな本音を隠してさも当初からの予定であったかのようにさらりと説明を済ませたミルナに呆れるばかりのアンリには、もちろん頑張る気など起きない。しかしミルナがにっこりと笑えば、未だにその笑顔に魅了されているらしい学園生たちは、何も知らずに、やる気に満ちあふれた表情で「はい!」と元気よく声をそろえて応えるのだった。
やがてたどり着いた目的地で、一年生三人の中で最も活躍したのはウィルだった。
「あっちの木の根元にキノコがあるよ。そういえばそっちの木の上の方にリストに載っている木の実が付いているみたいなんだけれど、こないだは飛翔系の魔法を使える人がいなくて、採れなかったんだ」
「……ウィル、よくそんなに場所を覚えているね」
一度来ているんだから当然だよ、などと笑うウィルの横で、アンリは辺りを見渡した。似たような大木ばかりが並ぶこの場所では、方向感覚さえまともに保つのは難しい。ましてや、正確にこの木にどんな素材があるかを記憶しているなんて。アンリがふとアイラに視線を遣ると、彼女も信じられないといった様子で愕然としている。
ウィルは常識人だと信じていたが、これを当然と言い張るくらいだから、彼の常識も怪しいかもしれない。
素材の採取はウィルの記憶をもとに、実習生全員で協力して行った。高い木の上に付いた実は、スグルが飛翔魔法で飛び上がって採ってきてくれた。最近体を浮かせるようになった、と言っていたわりには随分高くまで飛べるようだ。やはり、二年生での学年トップの成績は伊達ではない。
全員での行動になったこともあり、アンリは極力魔法を使わずに、今度こそ自分の正体を隠しきることに集中して目立たず過ごすことにした。そんなアンリを気遣って、ウィルやアイラも常に一緒に行動してくれた。こうして、最後の五日間はのんびりと、平和に過ごすことができたのだった。
ただし四日目の夜、つまり野外活動で過ごす最後の夜に、アンリが夜中にこっそりと小屋を抜け出したことは、ウィルやアイラにさえ秘密である。




