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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(47)

 小さくなったドラゴンは、ひとまずマグネシオン家の研究所に預けることになった。


 ドラゴンを連れ帰ったその日のうちに受け入れることを決めてくれたマグネシオン家に、アンリは感謝するほかない。研究所へドラゴンを連れて行くと、すでに机や椅子の取り除かれた会議室が一室、ドラゴン用の部屋として用意されていた。エサ皿に玩具、脱走防止のフェンスまで用意があって、受け入れ態勢は万全だ。


 中へ入ったドラゴンは、部屋をうろうろと駆け回ると、気に入ったと言わんばかりのはしゃいだ様子でキュィッと鳴いた。その様子を眺め、所長のボーレンは満足げに微笑む。


「これならもう、首輪は必要ないですかね」


 部屋の隅に用意された玩具にじゃれつくドラゴンは、子供そのものだ。体内に溜まった余分な魔力を放出した今となっては、魔力を使った恐ろしい攻撃など、発しようがない。


 周囲への危害を抑止するための魔法器具など不要とボーレンが判断するのも、無理のないことだった。


 しかし無邪気に遊ぶドラゴンを一緒に眺めながら、アンリは彼の考えを否定する。


「普通に成長していけば、また魔力が溜まるはずです。そのときのためにも首輪は必要でしょう。今は結界魔法で魔力の吸収を抑えていますが、ずっとそうしていたら、こいつの成長に良くないし」


「え、今、魔法を使っているんですか」


「ああ、はい。あんまり他人に知られたくないんで、隠蔽魔法付きで」


 ボーレンにも、それなりに魔法の心得があるのだろう。魔法の使用をまったく感じさせない隠蔽魔法に感激し、是非とも研究させてくれと別の研究室へアンリを誘導しようとする。


 用事があるからとドラゴンの世話だけを頼んでアンリが退室するのには、相当の話術と忍耐が必要になった。




 ドラゴンをボーレンに預けたアンリは、そのままミルナの研究室へ向かった。アンリが机上に並べた素材に、ミルナは目を輝かせる。


「ありがとーっ! アンリくんなら良いものそろえてくれると思っていたのよ!」


 特にミルナの目が向いたのは、すでにコロコロとした丸い形に加工された魔力石群だ。どうせ加工を任されるのだからと、アンリは素材の一部をあらかじめ、腕輪にはめ込める大きさの魔力石に加工して持って来ていた。


「違う形を試すなら、加工しなおしますけど。どうします?」


「ううん、これで大丈夫。だけど……」


 そう言って数ある魔力石の中からミルナが手に取ったのは、全体の中に三つほど混ざった、やや青みがかった魔力石。迷わずその三つを手に取るミルナの鑑定眼はさすがだと、アンリはその様子を感心して眺める。


「アンリくん、まさかとは思うけど」


「北の山脈には行っていませんよ。洞窟の中で暴れたドラゴンが落としたやつです」


 集めた素材を魔法で分解、圧縮して作った人工の魔力石。数多く作った中に三つだけ、ドラゴンの鱗を素材として組み合わせたものを混ぜていた。ミルナは正しくそれを見分けて、拾い上げたのだ。


「まあ、危険なことをしたのでなければ良いけれど。……ねえ、これと同じものを、あと十個くらいつくれるかしら?」


 アンリが気まぐれに作った魔力石は、どうやらミルナの研究心を刺激したらしい。


 勝手なことをして怒られるかもしれないと思っていたアンリは、好奇心に溢れるミルナの笑みに安堵した。




 翌朝。体験カリキュラムに戻ったアンリは、洞窟で採れた青龍苔を研究室に土産として届けた。ハーミルをはじめ、研究室の面々が喜びの声をあげる。


「さっすがアンリだ。こっちのほしいモノがわかってるじゃねえか」


 切り出した青龍苔の塊を手に、ハーミルは嬉しそうに笑った。


 急な協議会の開催により、研究部全体で素材の取り合いが起こっているらしい。手に入らないというほどではないが、新鮮な素材の入手は難しくなっているようだ。


 そんな事情など知らないアンリは、ほかに持って帰る物が思い付かずに青龍苔を土産にしたにすぎない。昼食に立ち寄った街で菓子でも買って帰ろうかと思っていたのだが、いまいち受けが悪いのではないかという予感がしたのだ。


 予感が当たったのかどうかはともかくとして、持ち帰った土産が喜ばれたのは幸いだった。


「しかし、いつものことながら、この採取技術も半端じゃないな。断面が綺麗だ。……研究職に転向したくなったらいつでも言えよ」


「なに言ってるんですか。上級戦闘職だからこそ、あの洞窟だって行けるんですから」


「そりゃあ、わかってるがな」


 冗談とも本気とも取れないハーミルの言葉に、アンリは苦笑を返す。


 確かにここしばらくの体験カリキュラムを受けて、研究部の仕事もなかなか面白そうだと思ったのは事実だ。新規の製品開発も、開発した製品の改良も。昔行われていた研究がマグネシオン家の私設研究所に引き継がれ、その成果がもうすぐ発表されるということも興味深い。


 いつもならあっさりと切って捨てているはずの勧誘に、アンリは初めて少しだけ、心を動かされたのだった。

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