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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(44)

 狙ったとおりの場所でドラゴンと相まみえたアンリは、そのまま周囲に結界を張った。ドラゴンの攻撃はひとつひとつ規模が大きい。何も対策せずに戦えば、悪くすれば洞窟が崩落するかもしれない。大人のドラゴンとの戦闘を想定すれば、の話ではあるが。


 しかしその想定はこの子供のドラゴンに対しても、決して大袈裟なものでなかった。


 アンリを前にしたドラゴンが翼を膨らませ、首を反らせて口を開く。


 ーーーーーーーーッ!!


 アンリは咄嗟に自らの周りにも結界を張った。さらに両手で耳を塞ぎ、それでも頭の奥まで響く大音量。周囲に張った結界を抜けて洞窟の外まで、もしかすると、駐在所の小屋まで響いたかもしれない。


(……たしかに、こないだの鳴き声とは大違いだ。ちゃんと魔力がこもっている)


 鳴き声に魔力を混ぜることができるようになったという、隊長の言葉を思い出す。まだこめられる魔力の量は大人のドラゴンほど多くはないようだが、周囲に対して十分に攻撃力のある鳴き声だ。


 結界越しに、アンリは冷静にドラゴンを観察する。ドラゴンは自分の鳴き声がアンリに通じていないことに気付き、どうやら腹を立てたらしい。意地になったように、何度も同じ咆哮を繰り返した。


 ドラゴンの機嫌になど構うことなく、アンリは観察を続ける。もちろん結界越しなので、どんなに強い鳴き声を浴びせられようと、何のダメージを負うこともない。


 しかしこのままでは事態の進展も見込めない。七回目の鳴き声を浴びたところで、アンリは諦めて自らの周りの結界を解除した。


(さすがに鳴き声だけで魔力を使い尽くさせようだなんて、何百回やらせても無理か)


 鳴き声一回にこめられる魔力量。それを百回分あわせても、ドラゴンにとっては微々たる量だ。特にこのドラゴンは、まだ鳴き声に魔力をこめることに慣れていない様子で、何回かに一回は失敗している。


 戦うことでドラゴンに魔力を消費させ、子供にふさわしい魔力量にまで持っていくつもりだった。しかし、そううまくはいかないようだ。


(それができるなら、隊長もそうしているだろうし)


 再び鳴き声をあげようと翼を広げたドラゴンに、風魔法で竜巻をぶつける。ドラゴンの体はアンリが思っていたよりも簡単に吹き飛んだ。洞窟の壁に激突する前に、別の風魔法で柔らかく受け止めてやる。


(軽いな。魔力を吸って大きくなっただけで、張りぼてみたいな感じなのかも)


 何が起きたのかわからないという様子でジタバタと足や尾を振り回すドラゴンの姿に、アンリは思わず苦笑した。本当に子供だ。これで体が小さければ、可愛らしいとも思えるのだけれど。


 アンリは右手にはめた青龍苔のグローブをいったん外し、腰のベルトに挟んだ。自由になった両手の全ての指に魔力を集め、ついでに指先に集まった魔力をそれぞれ二つに分ける。腕に感じる強い重みをなんとか耐えて、両手をドラゴンに向けた。


「たまには俺だって、ちょっと無理した魔法を試してみたいと思うことがあるんだよ。大丈夫、結界もちゃんと張るから」


 ドラゴンに語りかけながら、アンリは二十に分けた魔力をそれぞれ魔法に変えて、二十の魔法を重ねて発射した。アンリ自身の体まで後ろに跳ねるほどの大きな衝撃の後、洞窟全体に響き渡る爆発音。


 跳ねた勢いを利用してそのまま飛翔魔法で飛び上がったアンリは、魔法の結果を見下ろした。発射前に発動した何重もの結界魔法が洞窟を守っていたが、それでも壁の一部が大きくえぐれてしまったようだ。おや失敗、と思って焦ってドラゴンを探すと、土埃の中に、怯えた様子で体を縮こまらせたドラゴンの影が見て取れた。洞窟の壁を守るよりもさらに厚く張ったドラゴンの周りの結界は、流石に耐え切ったらしい。


(……やっぱり慣れないことはやめた方がいいのかな)


 アンリが完全な制御のもとで重ねることのできる魔法の数は十五。それ以上は練習中だ。二十重ねた重魔法を実戦で使うのはまだまだ危ないらしい。


(無難にできる数でやっていくか)


 地面に降り立ったアンリは改めて指先に魔力を集め、今度は無難に十五に分けた。

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