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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(43)

 先輩二人を小屋で待たせて、アンリは一人、移動魔法で洞窟へと向かった。


 身につけているのは戦闘職員用の支給制服とアンリが好んで使う短剣。用意の良いことに、駐在所にはアンリが必要とする装備が全て調えられていた。アンリが来ることを知っていたからこそ、隊長はそれらを用意して待ち構えていたのだろう。


(先輩たちには、悪いことをしたなあ)


 アンリが無事に問題を解決できれば洞窟内に入ってもよい、と隊長は言った。そこでアンリはサニアとスグルに、諦めて先に帰るか、アンリが戻るまで小屋で待つかを選択させたのだ。二人はさも当然という顔をして、待つ方を選んだ。よほどドラゴンの洞窟に入りたいらしい。


 しかし、これからすべきことを考えると、小一時間はかかるだろうとアンリは推測している。その間、二人はあの隊長と一緒に、小屋で待たなければならないのだ。アンリが小屋を出る段になってそのことに気付いた二人の、蒼白な顔と言ったら。緊張しすぎて倒れていないか心配だ。


(それよりも、隊長が変なことを言わないか心配した方がいいのかな……)


 先日、孤児院でサリー院長がアイラやウィルに余計な話を色々と吹き込んでいたことを思い出す。完全に推測でしかないが、隊長も同じことをするのではないかという予感があった。


 早く終わらせようと決意して、アンリは洞窟へと足を踏み入れる。


 先日と同様、まずはできるだけドラゴンを刺激しないように、魔法を使わず洞窟内に入った。先ほどまで感じられていた大きな魔力の動きが静まっている。また寝入ってしまったのかもしれない。わざわざ起こさないように、洞窟の壁に沿って静かに歩みを進める。


 広い空間に出ると、案の定、その隅の方でドラゴンは体を丸めていた。丸めた体の大きさは、小さな一軒家ほど。まだ大人のドラゴンよりは小さいが、先日に比べると随分大きくなっている。それだけこの洞窟内で、魔力を吸ったということだろう。


 ドラゴンを寝かせたままに、アンリは洞窟の奥へと足を進める。このままドラゴンの首を獲るという解決方法も無いわけではないが、それは最後の手段だし、恐らく隊長もそれを望んでいるわけではないだろう。……いや、案外望んでいるかもしれないが、ここまできてアンリがその手段をとるとは思っていないはずだ。


 アンリは洞窟の奥、青龍苔の生える一帯へと進んだ。ぼんやりと光を放つ青龍苔。その美しい景色に見惚れることなく、アンリは手近な青龍苔に右手をかざした。ぼんやりと輝いていた青龍苔が突然輝きを増し、アンリの手に吸い取られるように浮き上がって形を変える。それは間もなく、アンリの右手を覆う、輝くグローブとなった。


(こういう直接加工も、アイラやウィルに見せてやった方が良かったのかな)


 魔法を使った素材の加工。一般流通させるための魔法器具を作る場合は、研究所など設備の整った場所での加工が必要になる。しかし、簡易的な加工であれば、素材を採取したその場であってもできるのだ。外出先で臨時の武器や道具を作るのに役に立つ。


(まあ、こないだはどのみちできなかったか。これやったら、気付かれるし……)


 アンリの感覚が、大きな魔力の揺らぎを捉える。アンリが行使した魔法による魔力の動きを察知して、ドラゴンが目を覚ましたのだろう。驚いて、戸惑うように左右を見回し、それから感じ取った魔法の気配の源が洞窟の奥であることに気付く……そんなドラゴンの動きが目に見えるようだった。


 そうして、ドラゴンは魔法の気配を感じた方向……つまりアンリのいる場所へと、真っ直ぐに進んでくる。洞窟内では自慢の翼で飛ぶことはできないが、脚で走る速さも大したものだ。


(ここで戦って青龍苔の採取場を台無しにしたら、いろんな人に怒られるだろうな)


 ドラゴンに見失われないよう、アンリは魔力の動きをはっきりと示しながら飛翔魔法を使い、自らもドラゴンに向かっていった。ドラゴンの眠っていた場所と、青龍苔の採取場とのちょうど中間地点。その辺りであれば、多少周りを壊したところで、誰も困りはしないだろう。

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