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がやがやと騒がしい学園の食堂。そのほとんどが、今日入学式を終えたばかりの新入生だ。校舎見学を終え、もう帰ってもよいとのことだが、折角の初日なので食堂で新しい友人たちと昼食をともにしていこうという考えだ。ちなみに、新入生たちの思いと混雑状況を知っている上級生たちは、初日は食堂に寄りつかない。そのため、数あるテーブルのほとんどを、真新しい制服が埋め尽くしていた。
たくさん集まった新入生たちのなかには、アンリの姿もあった。
「アンリ君、趣味が魔法研究って、どういうこと?」
友人作りに自信のなかったアンリだが、幸いにも、食堂では数人のクラスメイトと輪になってテーブルを囲むことができた。アンリの趣味に興味を持ったのは、エリックと名乗った小柄の男子だった。テーブル越しに、年齢よりも幼く見える丸い黒目が、興味深げにアンリを見つめる。
「そのままだよ。魔法学の本を読んだり、魔法の実践……の見学とか」
「すごーい。魔法学の本って、難しいんでしょ」
合いの手を入れるのは、エリックの隣に腰掛けたマリアだ。友達のいないアンリを食堂に誘ってくれたのが彼女だった。
「慣れてしまえばそれほどでもないよ。それより、マリアの家ってこの近くなの?」
「うん、歩いて二十分くらいかな。寮よりは遠いけど、通えない距離じゃないからね」
「マリアちゃんの家って、すっごく大きいんだよ」
マリアの話をエリックが小声で補足する。マリアとエリックは旧知の間柄だそうで、同じクラスになれたことをマリアは教室でキャッキャと騒いで喜んでいた。
「なに言ってるの。エリックの家だって、十分大きいでしょ」
「でも、僕は三男だし。あの家は、兄さんのものになるんだよ」
「それを言ったら私だって、いつかはお嫁に出るんだから!」
どうやら二人とも、学園周囲に住居を構える貴族の家の出身らしい。その会話に「東の小っちゃな村」の出身であるというハーツが、目を輝かせた。
「さすが、大都市イーダの中等科学園だな。これでこそ、田舎からわざわざ出てきた甲斐があるってもんだ」
日焼けした肌に引き締まった身体の彼は、イーダという都会の街では、たしかにやや田舎者めいて見えた。しかし、それを気にした風もなく、おおらかな性格が見て取れる。
ハーツの言葉に、マリアが首を傾げた。
「そういえば、ハーツ君の村に中等科学園はなかったの?」
「うん、初等科まで。近くの街にはあったんだけれど、どうせ寮暮らしになるんだし、せっかくなら大都市の学園に通ってみたいなあと思って」
どんなに小さい村や町にも、たいてい初等科学園はある。一方で中等科は、一定数以上の子供がいる街にしか置かれない。だからハーツのように小さな村の出身の者は、初等科を卒業後、どこかの中等科学園の寮に入ることになる。
それでもたいていは、実家から近い街の中等科学園に入学するものだ。
「幸いちょっと魔法力の適性があったからさ。ダメ元で検査を受けたら、通ったんだ」
「すごーい。ここの検査って、遠方出身だと厳しいんだよ」
中等科学園への入学は、学園の近くに住む者が優先される。国内に数ある中等科学園へ、均等に生徒を割り振るための仕組みだ。入学希望者が定員を上回る場合、入学検査は入学者を選定するための試験を兼ねる。
大都市であるイーダの中等科学園は人気が高く、入学希望者が多く集まるのだ。
「ダメ元だったんだけど、運が良かった」
「運じゃなくて、ハーツ君の実力でしょ! ね、アンリ君」
「そうだね。魔法力の検査は、運とかその日の調子とかには左右されないから」
魔法力検査では、その人の持つ魔力の器を測る。たとえ魔法の連発により魔力を消費していたとしても、器の大きさは変わらない。魔力の器を大きくする訓練をすれば上がるし、訓練を怠れば下がるが、運に左右されるほど甘い検査ではないのだ。
ちなみにアンリは空間魔法の応用で魔力の器を小さくみせて、入学検査を乗り切った。
「さっすがアンリ君! 魔法研究が趣味って言うだけあって、よく知ってるよね」
「……マリアちゃん、このくらいなら僕でも知ってる」
エリックの言葉に首を傾げるマリアは、魔法に関する知識は乏しいようだ。
四人で楽しく昼食を終え、アンリは寮へと帰った。




