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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(42)

 ミルナから頼まれた素材の採取が終われば、あとはアンリの目的を果たすだけだ。


 そのために訪れたドラゴンの洞窟入口近くの駐在所の玄関で、サニアとスグルは、体をカチカチに強ばらせていた。目の前に立つ、朗らかな笑みを浮かべた男がその元凶だ。


「なんでこんなところにいるんですか、隊長」


「なんでって、仕事だよ。ドラゴンの住む洞窟の管理なんて、戦闘能力の低い隊員には任せられないだろ?」


 だからと言って一番隊の隊長、つまり防衛局戦闘部のトップがその役を担う必要はないのではないか。アンリのそんな指摘を、隊長は笑顔で黙殺する。


「それで、洞窟に入るのはアンリと中等科学園生の二人だね。サニア・パルトリさんと、スグル・ウォルゴさん? アンリは常識知らずで大変だろう。迷惑をかけて申し訳ないね」


「いっ、いえっ、そんな!」


 防衛局戦闘部の一番隊隊長の視線を受けた上級生二人は、可哀想に、返事もそこそこに体をいっそう硬くした。憧れの人物から直接声をかけられたのだ。緊張しても無理はない。


「……常識知らずなんて、隊長には言われたくないんですけど」


「まあそう言うな。さて、本題に入ろう。実はちょっと洞窟で問題が起きているんだ。ちょうど良いからアンリには問題解決に少し役立ってほしい。解決するまでは、ほかの二人を洞窟に入れるわけにはいかないよ」


 それまでと同じ和やかな笑みを浮かべたまま、隊長はさらりと言った。突然の言葉に、サニアとスグルは意味を掴み損ねて首を傾げる。しかしすぐに、自分たちが洞窟への立入を禁止されたことに気付いて顔を見合わせた。折角ここまで来たというのに、また先日のように、中途半端に引き返さないといけないということか。


 アンリはといえば、隊長の言葉にやっぱりなと思って渋い顔を作った。先ほどから、この場でわかるほどに洞窟内の魔力の動きがおかしい。そのうえ一番隊の隊長が出張っているとなれば、何かあったのだろうと嫌でも気付く。


「ま、とにかく中で話そう。そっちの二人もそんなに緊張しないで、一緒にどうぞ」


 無茶なことをと上級生たちを気の毒に思いつつ、アンリは二人を連れて小屋に入った。




 隊長の説明によれば、洞窟の中のドラゴンは思わぬ速度で成長を続けているらしい。


「日を追うごとに洞窟内の魔力を吸って巨大化している。魔力の扱い方も覚えはじめていて、今では大人のドラゴンと同じように、鳴き声に魔力を混ぜることができるんだ」


 それはすごい、とアンリは出されたココアを飲みながら感心して呟いた。初めてあのドラゴンに出会ったときから、まだひと月も経っていない。これほど早くに成長するとは思っていなかった。


 アンリはただ感心するばかりだったが、隣で同じ話を聞くサニアとスグルは顔を青くしていた。ついでに隊長まで、アンリの吞気な反応にため息をついて頭を抱える。


「……どっかの誰かが保護なんて言い出すから、そんな危険なドラゴンをこうして現状維持で面倒見ないといけなくなったんだ。ちゃんとわかってるか?」


「あ、そっか」


 思わず呟いたアンリに、隊長はまた深くため息をつく。


 アンリがドラゴンを保護したいと言い出したことを発端に、マグネシオン家当主が協力を申し出て、ドラゴン用の魔法器具ができるまでのドラゴンの保護を請け負ってくれたのだった。マグネシオン家がどれほどの影響力を持っているのか、どのように国家機関を動かしているのかまではアンリの知るところではないが、アンリのお願いが結果的に、防衛局一番隊隊長を出動させるほどの大事になっているということだろう。


「ただでさえ臨時の協議会を開くとかなんとかで、研究部からの素材採取の護衛依頼が殺到しているんだ。忙しいなんて言葉では足りないよ」


 ぼやく隊長の言葉に、アンリは身を縮ませた。つまり全てアンリのせいである、と。簡単に言ってしまえばそういうことだ。


 知らぬフリをすることもできるが、それではあまりにも不義理が過ぎるというものだろう。アンリは仕方なく、頭を掻いて申し出た。


「……わかりました。せめてドラゴンのことくらいなんとかしますよ。それでいいですか?」


 ああ助かるよと白々しく笑った隊長を、アンリは忌々しく睨んだ。

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