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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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 大河の中州で特殊な草を刈り、山奥の源泉で水を汲み、北の街道脇で雑草に見える花から蜜を採り、龍の湖と呼ばれる水辺で特殊な花を摘んだ。それから経路上にあった小さな街の食堂で昼食をとって休憩し、食後すぐに空を飛ぶと酔うことがあるからと念を入れて徒歩で移動した先の、小さな湖の畔。


「お疲れ様でした。ここの素材を採取すれば、ミルナさんに頼まれた分は終わりです」


 疲れた表情を見せ始めたサニアとスグルを励まそうと、アンリは二人に笑顔で言った。それなのに二人から返ってきたのは、なんでアンリ君は元気なのとか、魔法を使っているのはアンリなのにとか、余計に疲れた様子の呟きだった。やはり他人を励ますというのは難しい、とアンリは首を傾げる。


 気を取り直して、アンリは湖の真ん中に浮かぶ小島を指差した。


「最後はあの島で石をいくつか拾います。ただ、あの島の近くでは魔法が使えないので、魔法で飛んでいくことができません」


「魔法が使えない?」


「魔力に触れると衝撃波を発生させる岩があるんですよ。魔法を使って近付くと、下手すると大爆発です」


 敵意を持った動物の接近にあわせて迎撃するための魔法器具。その「攻撃」を担う素材だ。


 少量の素材に多少の魔力を触れさせるくらい問題ないが、その原石となる巨大な岩となると話は違う。ほんの少し魔力に触れただけで、大爆発を起こすだろう。過去にそんな爆発が起きて出来上がったのがこの湖であるとさえ言われている。


 幸い湖には浅瀬があって、腰くらいまで水につかる覚悟さえ決めれば、飛んでいかずとも歩いて島に渡ることができる。やり方さえ間違えなければ、難しい採取ではない。


「先輩方、どうします? 島まで行きます?」


 服は濡れても後で魔法を使えば乾かせる。しかし、そもそも水の中を歩いて行くこと自体に抵抗を感じるようであれば、強制するつもりはない。ここで待っていてもらえれば石は自分が採ってくるからとアンリは言ったが、疲れた顔をしていたはずのサニアやスグルは、意外にも、まったく躊躇わずに「行く」と主張した。


「ここまで来たのに最後だけ待ってるなんて、つまらないよ」


「アンリ君一人で行った方が速いかもしれないけど、連れて行ってほしい」


 速さは重視していないから、とアンリは二人の希望を受け入れた。元々連れて行くつもりだったのを、二人が嫌がりはしないかと思っただけだ。素材探しに連れ回されたことにうんざりして防衛局への興味を失いました、などと言われたらミルナに恨まれそうだという心配もあった。


「じゃあ行きましょう。さっきも言いましたけど、魔法を使うと吹き飛ばされるので、気を付けてくださいね」


 それまでに採取した素材や荷物を岸辺に置いて、三人はアンリを先頭に浅瀬を歩いて島まで渡った。それまで実際の素材の採取は主にアンリが行っていたが、最後だから記念にと、持っていたナイフを使って三人それぞれ岩を欠く。魔力に触れるととんでもない効果を及ぼす岩だが、それさえ気を付ければナイフで削れるほど脆い。だから加工も簡単なのだというアンリの説明に、サニアもスグルも、胡乱な目を向けた。


「……扱いが難しくて加工が大変って、ミルナさんは言っていたけど」


「魔法で加工できないってだけですよ。ナイフとやすりで削ってあの腕輪に合う形に仕上げるのは確かに手間ですけど、大変って言うほどではないでしょう」


 サニアとスグルは腕輪にはまっていた石を思い出す。小指の爪ほどの大きさだっただろうか。柔く脆い石をあの小ささに加工するのは、硬い石から削り出すより、むしろ技術が必要なのではないだろうか。


 この後輩の言葉を丸ごと信じてはいけない……そう悟った二人は、顔を見合わせて深くため息をついた。

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