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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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 大きな都市の上空を避けながら、首都から東へ飛ぶこと十数分。急峻な山の中腹に広がる岩場に降り立ったアンリは、隣でへたり込んだサニアに手を差し伸べた。


「大丈夫ですか? 酔いました?」


「あ、ううん、大丈夫。びっくりしただけ……」


 なら良かったと、アンリは彼女の手を引いて立ちあがらせる。転移魔法を起動させるための印をつけていない場所だったため、サニアとスグルを連れて飛翔魔法で目的地まで飛んできてしまった。空中を飛ぶのに慣れない人は、乗り物酔いのような症状を起こすことがある。しかし、サニアは大丈夫らしい。


 隣に立つスグルも特段問題は無さそうだった。アンリはほっと胸をなで下ろす。今日の素材採取は全て飛翔魔法で移動する強行軍だ。酔って辛いと今から弱音を吐かれては後が困る。


 スグルはどことなく遠い目をして、来た方角を振り返っていた。


「……飛翔魔法って、こんなに速く移動できるものなのか?」


「うーん、そうですね。一番隊の魔法戦闘職員なら、皆このくらいの速さは出せると思います。移動について言えば、隊長とかに比べたら、俺は遅い方ですよ」


 戦闘職に興味のあるらしいスグルには、研究部での体験だけでは物足りないだろう。少しでも実感できればと、アンリは親切心から意識して詳細に説明した。


「……俺、最近魔法で体を浮かせられるようになって、結構周りに自慢してたのに……」


 どうやらスグルの自尊心を傷付けてしまったようだ。普通の戦闘職員ならば入職後に戦闘魔法の訓練を受けることになるので、今の魔法のレベルは気にしなくても差し支えないのだが。しかしあまり話しすぎると、またどこで常識外れなことを言ってしまうかわからないので、アンリは慰めの言葉を自重した。


「とにかく行きましょう。まずこの岩場で、魔力を貯める性質を持った石を採取します」


 アンリは二人を連れて、背丈より大きい岩と岩の隙間をくぐりながら岩場を進む。幸い晴天が続いているようで、足場は悪くない。二人のために歩きやすい道を選んで、よく使っている穴場へ向かう。


 時刻は早朝。今日はミルナの権限で三人だけ体験カリキュラムを休み、丸一日をかけて素材採取に励むことになった。行き先がドラゴンの洞窟だけならば先日のように夕方から出かける手もあったが、彼方此方を巡って複数の素材を採取する必要があったため、一日使わせてもらうことにしたのだ。


(……まあ、俺だけなら本当は一日かける必要も無いんだけどね)


 しかし決まったことは仕方が無い。ミルナもドラゴンの洞窟での体験が半端になってしまったことで、二人に負い目があるのだろう。アンリに素材採取をさせつつ負債を払拭できる良い機会だと思ったに違いない。


「この奥です。一番奥の赤っぽい石、見えますか?」


「うん、ちょっと暗いけど……あれが、魔力石の原料になる石なの?」


「そうです。街中じゃ滅多に見られない、天然の魔力石の塊ですよ」


 魔力石は、魔力を貯めておく石のこと。石という名前の通り、元来は鉱山や河原で採れる特殊な性質を持った天然の石のことを言う。しかし天然石が貯めることのできる魔力の量にはムラがある。その欠点を解消するために登場したのが、魔力を貯める素材を魔法で圧縮して固めて作られた人工の魔力石だ。今では一般に「魔力石」と言えば、この人工石を指すことが多い。


 しかし今三人の目の前にあるのは、珍しい天然の魔力石だ。


 アンリは説明をしながら掌を石に向け、石の表面を魔法で削った。ザザと音を立てて削り取られた石の粉は、一陣の風に乗って、アンリが腰に着けている拳大の瓶の中に吸い取られる。


「そんなに少しでいいのか?」


「材料の一つなので、そんなに多くは要らないんです。天然の魔力石は貴重だから、保存するためにも、配合は少なめにするのが基本です」


 どんな材料をどんな比率で組み合わせ、どのくらいの力で圧縮するかによって魔力石の性質は大きく変わる。星の数ほど存在する配合方法の中からどれを選ぶかは製作者次第だが、一般的に、貴重な素材を多く配合することはまずない。


 貴重な素材を保存する意味もあるが、貴重で高価な素材を多く使うと最終的に出来上がる魔法器具の価格が常軌を逸してしまうので、現実的ではないという理由もある。


「この粉は、石十個に対して一つまみ使うくらいです。……さて、次の場所へ行きましょう」


 元来た道を戻り、開けた場所に出てから、アンリは再び二人を連れて飛翔魔法で飛び立った。次の目的地はこの岩場から南へ飛んで数分、雄大な流れを見せる大河の中流。


 草の生い茂る中州の端に、三人はふわりと降り立った。

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