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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(34)

 実験を終えた後。研究所の一角にある会議室で、アンリたち三人とマグネシオン家当主、それにこの研究所で所長を務めているという初老の男性一人が集まった。


「いやはや、大変有意義な実験でした」


 ボーレンと名乗った所長は、穏やかそうな顔を上機嫌に緩ませる。


「そもそも、あれほど凄まじい重魔法を私は見たことがありません。素晴らしい。しかし、それを防ぎきったこの試作品の出来にも大満足ですよ」


 五人が囲む机の上には、先ほどまでアンリが装着していた腕輪型の魔法器具が置いてある。実験でアンリはこの腕輪を装着する前に、十の魔法を重ねた重魔法を発動した。その後、この腕輪をつけて同じことをしようと試みたが、重魔法どころか、小さな魔法ひとつ使えなくなっていた。魔法器具が期待通りに作用することが示されて、実験は終了したというわけだ。


 上機嫌にアンリの魔法まで持ち上げようとするボーレンに対し、アンリは苦笑を返す。


「あのくらいの魔法なら、ほかにも使える人はいます。それよりこの試作品ですね。普通の魔法無効化装置だと魔力の放出はできるから、魔力を過剰に通すことで壊すこともできます。でもこれは着けた途端に、魔力を放出することもできなくなった。まるで、魔力放出困難症になったような……」


 後半は半ば独り言のようだった。ぶつぶつと呟きながら、アンリは改めて魔法器具を手に取って熱心に見つめた。腕輪の中央にはめ込まれた四角い石のような物体に慎重に触れ、中の構造を探る。ミルナにもらった古い研究ノートやハーミルから借りたレポートと同じ発想で作られた魔法器具ならば、ここに核となる材料が入っているはずだ。


「……アンリ。あの魔法、いったい何をしたのさ。ほかにも使える人はいるって?」


 実験室に集まっているメンバーのことなど構いもせず魔法器具に熱中するアンリに、呆れたウィルが声をかけた。しかしアンリは魔法器具に見入ったまま、顔も上げようとしない。ウィルの声など聞こえていないようで、返事もせずにじっと腕輪を見つめている。


 その様子に、マグネシオン家の当主は声を上げて笑った。


「ははは。致し方ないな。私としては、アンリ君がこの熱意で研究の仕上げに協力してくれるなら、言うことはない」


「あ、すみません。つい」


 この場の主宰者の声に、アンリはようやく我にかえった。慌てて腕輪を机の上に戻し、背筋を伸ばす。その様子にも、当主は機嫌良く笑うだけだ。


「なに、構えなくてもいいさ。私たちは協力関係にあるのだから。まあ、感想くらいは教えてほしいな。どうだい、この魔法器具は」


「面白いです。昔の研究ノートは見ましたが、とても実現するものとは思えませんでした。それをこんな風に……青龍苔にこんな使い道があるなんて、予想外でした」


「おや、青龍苔だとお分かりですか」


 研究者魂がうずくのか、ボーレンが話に割って入る。もちろん、とアンリは頷いた。


「魔力の動きを制御する青龍苔の特徴を利用しているんですよね。俺はそれを、魔力の放出を補助するほうに使って魔法器具を作りましたが……全く逆の使い方もできるというのが興味深いですね」


「素晴らしい。まだ設計図もお見せしていないのに、そこまで見定めるとは。どうです、他に何かお気付きの点はありませんか」


 目を輝かせるボーレンを前に、アンリは再び腕輪を手に取って、くるりと回した。今度は観察するというよりも、その重さや感触を確かめるような手つきだ。


「そうですね。俺の目的は、ドラゴンの魔法を抑制することです。この腕輪をそのまま大きくしてドラゴンの首輪にしてしまえば、きっとその目的は達成できます。ただ……」


 アンリはやや言い淀んだ。ボーレンに視線で促され、ためらいがちに、苦笑混じりで言葉を続ける。


「……俺に使うことを考えると、不十分だと思います。これは装着型だから、腕輪をはめないと効力が出ないでしょう? 使われたくなければ、俺なら、はめる前に壊しますよ」


 そう言ってアンリは無造作に腕輪を上に投げると、人差し指を向け魔法で狙うフリをした。驚いて目を見開く四人の前で、腕輪は何事もなく、アンリの手の中へ落ちる。


 息を呑んでかたまったその場の四人に対し、アンリは肩をすくめて見せた。


「ま、今は壊しませんけど。俺用だったら、離れていても使える範囲型の魔法器具開発をおすすめします」

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