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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(29)

 実験はシロンの魔力が切れるまで続けられ、そこまでやっても器具はびくともしなかった。最終的には戦闘魔法と呼べるほどの魔力を使った魔法まで使用することができていたところを見ると、この魔法器具は十分に実用に耐え得ると言うことができそうだ。今後、人を変えて数回実験を繰り返し、実用化に繋げていくという。


「どうだった、実験は」


 実験が終わり、少し早いがと解散になった後、アンリは一人でハーミルの個人研究室を訪れていた。ミルナやハーミルほどの職位にある研究部職員には、所属の研究室のほかに、個別の研究室が与えられている。


 資料が多く雑然とした研究室の片隅で、アンリは折り畳み式の簡素な椅子に身を小さくして座った。部屋の主は資料が山と積まれた机の上で、紙の山をひっくり返しながら探し物をしている。


「すごいなって思いました。俺の作ったやつじゃ、戦闘魔法までは使えないし」


「だからこその改良だからな。でもシロンの奴は、お前の作った最初の魔法器具使ったときから感激してたぞ」


 聞けばシロンは、アンリの発案した当初の魔法器具のときから、被験者として実験に参加していたらしい。シロンが初めて魔法に成功したのは、そのときの実験でのことだという。


 アンリの作った当初の型はつい最近、実用化せずに終わることが決定された。マリアのように魔法を使い始める子供くらいの魔法であれば良いのだが、より強い魔法を使うには魔力の変換効率が悪く、魔法器具の強度も弱い。その点を改善するためのハーミルの研究が軌道に乗っていることもあり、初期型は日の目を見ることなくお役御免となった。


 使えないものを作ってしまったとアンリは反省していたところだが、シロンは自分に希望を与えてくれた魔法器具が人に知られず終わることを、ずいぶん残念がったらしい。


「お前の開発がなければ改良もできなかった。実用化しなかったとはいえ、お前の功績はでかいぞ」


「……そうだったのかなって、今日、思ったところです」


 シロンの笑顔を思い出して、アンリは思わず頬を緩める。


 アンリが魔法器具を開発しようというときのきっかけは、大抵がただの思い付きだ。魔力放出困難症が治れば便利だろうとか、鳥獣除けの魔法器具に索敵機能が付いていると良いのではないかとか。幸いにして幼い頃からミルナの実験に付き合っているおかげで、魔法器具製作に必要な素材に対する知識もアンリは豊富に持ち合わせている。


 つまりアンリにとって魔法器具の開発とは、思いつきと知識とを試す実践の場に過ぎないのだ。素案となる試作品をミルナに提供した後、実用化に至るまでの実験やら改良やらにアンリが手出しすることはほとんどない。


 実際にその魔法器具を使う立場の人間がどんな気持ちでいるのか、その魔法器具がどれほど役に立っているのか。そのことにアンリは疎かった。


「研究部の仕事ってのも、案外悪くないですね」


「案外ってのは失礼だな。しかしお前にそう言ってもらえると期待できるな。戦闘職員を辞めたくなったらいつでも言えよ」


「それはないでしょうね」


「じゃあ兼務でも構わん。……っと、見つけたぞ。待たせて悪かったな」


 ハーミルが資料の山からようやく見つけ出したのは、日に焼けてやや縁が茶色くなったレポート用紙の束だった。かつて研究されていたものの、実用化には至らなかった魔法無効化装置の実験データ。ミルナからもらった研究ノートにハーミルの名前があったので、当時の記録が残っていないか探してもらったのだ。


 宝物を手にするようにレポートを受け取ったアンリは、そのページをぱらぱらと捲る。ミルナの研究ノートとかぶる部分も多いが、ノートにはなかった実験の記録も残っているようだ。


「ありがとうございます。これ、しばらく借りていてもいいですか」


「そう使うものでもないから、構わないが……しかしそれの研究に興味があるなら、俺やミルナよりも、まず自分の友人にあたるべきじゃないか?」


 アンリはレポートから顔を上げてハーミルを見る。何のことかと首を傾げてみせると、知らなかったのかと、ハーミルに呆れられた。


「その研究が中止になったのは、防衛局内での話だ。今では私人が研究を引き継いでいる。研究に出資しているのは、マグネシオン家だぞ」

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