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消灯時間を過ぎ、暗い部屋の中。アンリは光魔法で手元を照らし、ミルナからもらった研究ノートに読みふける。
(これ、普通の無効化装置とは違うな……)
魔法の発現理論は、言葉にすればそれほど難しいものではない。体内に溜まった魔力を放出し、外部の物質と結合させ、その物質を使用者の思い通りに動かすというだけだ。
一般的に普及している魔法無効化装置ではこの理論を利用し、魔力と物質との結合を強制的に解除している。外部の物質と結合さえしなければ魔法は発現しない。こうした魔法無効化装置は、主に犯罪者を捕らえる際の手枷や、対人戦闘が想定される場面で使用されている。
欠点は、結合を解除できる魔力量に制限があり、限界を超える魔力による魔法攻撃を受けると崩壊してしまうこと。しかし対象とする魔力の波長を限定すれば、その限界を引き上げることができる。常人の数十倍の魔力量があると言われているアンリの魔法でさえ、アンリの魔力の波長に特化した無効化装置を用意されてしまえば、無効化されてしまう。
しかしそれでも限界はある。人間の数百倍から数千倍の魔力量を持つと言われるドラゴンに、この魔法無効化装置は使えない。だからこそドラゴンの魔法を人間の手で無効化することは不可能であり、あの子供のドラゴンをこのまま成長させるのは危険だと判断されるのだ。
(……でも、この研究ノートの理論なら)
ミルナに渡されたノートに記された魔法無効化の理論は、一般的な魔法無効化装置とはまったく異なっている。魔力と物質との結合を解除するよりも前。体内に溜まった魔力の放出自体を妨げることにより、魔法を無効化するものだ。魔法を放出するための回路を無効化するものだから、魔力量は関係ない。これを実用化できれば、ドラゴンの魔法でも無効化することができるだろう。
しかしノートの記録によると、この魔法器具は実用化よりもだいぶ手前で研究が終了している。どうやら現在使われている魔法無効化装置の実用化が先に進んだことで、こちらの魔法器具の研究は意味がないと打ち切られてしまったらしい。
(ここまで進んでいるのに、勿体ない。まあ、人間以外に魔法無効化装置を使う必要なんて普通は考えられないから、仕方ないか)
人間よりも魔力量の多い生物はドラゴンだけではないが、いずれにしても大型の危険種だ。わざわざ装置を設置する手間と危険を冒すよりも、討伐してしまった方が早いし安全だ。ドラゴンは比較的穏やかな種なので保護という手立ても選ばれるが、魔法無効化装置を使うより、眠らせてしまった方が早い。
(それにしても、この研究をここから実用化まで持っていくのは、間に合うか?)
扱いに揉めているとはいえ、それほど日数をかけるものでもないはずだ。日が経って、ドラゴンが魔法を使えるようになってしまってはまずい。結論は数日以内に出されると思ってよいだろう。その前に、新たな選択肢を提示しなければならない。
さて、どうするか。
「あれ。アンリ、起きてたの?」
「あ、おはようウィル……もう朝か」
ノートを読み、考えにふけっていたアンリは、目を覚ました同室のウィルに声をかけられて初めて、窓の外が明るいことに気が付いた。




