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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(25)

 食堂での話が終わってすぐにアンリたちは防衛局の敷地を出て、転移魔法でドラゴンの洞窟手前の駐在所へ向かった。駐在所で待っていたのは案の定、アンリの顔見知りの戦闘職員だ。アンリの友人という存在に強く興味を示したが「急いでいるから」とアンリが冷たく言い放てば、深追いされることもなかった。


 そこから先は移動魔法で、いくつかの中継地を経ながら洞窟へと向かった。魔法による移動の最終到着地点は、洞窟の中ではなく、その入り口だ。


「ドラゴンが外に出ないように、魔法器具で結界を張ってあるんだ。移動魔法で無理に突っ切ると器具が壊れちゃうから、ここからは歩いて入ろう」


 当たり前のように説明するアンリを先頭に、三人は洞窟へと歩を進める。ここで「移動魔法は使えない」ではなく「使えるけれど器具が壊れる」と言うのがアンリらしいとウィルは思ったが、いちいち騒ぎ立てていてはきりがないと思い直して、黙っていることにした。


 アンリの手で、人が通れるようにほんの一部分だけ結界を解除して奥へ進む。


「こんなに速く来られるのなら、このあいだの野外活動はなんだったのかしら」


 洞窟を奥へ進みながらアイラがぼやいた。


「あのとき印を付けていなければ、転移魔法は使えなかったし。それに、あれはハイキングも含めて活動の一環だっただろ。俺は楽しかったよ」


「私は楽しくなんかなかったわ。疲れただけよ」


「じゃあアイラも転移魔法を覚える? ああ、でも今の魔力量だと、一人じゃ使えないか」


「まず、魔力量を増やす訓練に付き合ってもらってもいいかしら」


 もちろん、と頷きながらアンリは歩き続ける。狭い通路を抜けて広い奥へ至ると、その片隅に、例のドラゴンがうずくまっていた。


「……眠っているのかしら」


 小さく体をまるめたドラゴンの背は、規則的に上下している。もっと近付けば寝息の音が聞こえてきそうだ。無防備に眠るドラゴンを、アンリは目を細めて見つめた。


「そうみたいだね。人がこれだけ近付いても起きないなんて、やっぱりまだ幼いんだろうな。起こさないように、静かに行こう」


 三人は足音に気をつけて、そろりそろりと奥へ進む。魔力の動きで勘付かれてはいけないからと移動魔法も使わずに、岩だらけの道のりをゆっくりと進んだ。


 そして、入り口近くのドラゴンの姿も見えなくなった頃。


「綺麗……」


 突然目に入った光景に、それまで静かに歩いていたアイラが呟いた。隣ではウィルも息を呑む。


 三人の目の前には、見上げるほどに巨大なドラゴンの骨格が現れていた。生きていればその迫力はいかほどだったかと、想像さえ難しいほどの大きさに、ウィルとアイラはただ黙ってそれを見上げる。


 ただ大きいだけではない。その骨の表面が、全体的に、薄く青く発光している。大きさと迫力への畏怖よりも、幻想的な美しさへの感嘆が先に心を打つ。


「……はるか昔にこの洞窟で死んだドラゴンの骨だよ。肉が朽ちて残った骨の中には、ドラゴンの強い魔力が溜まる。青龍苔は、その魔力を餌に育つんだ」


 光っているのは骨そのものでなく、骨を隙間なく覆う苔だ。ドラゴンの骨を土台として生えた青龍苔が、僅かながら発光し、洞窟内を淡く照らしている。


 アンリは近くの骨に近寄り、ナイフを使って手早く必要な量だけ青龍苔を剥ぎ取った。それから未だに立ち尽くすウィルとアイラを呼んで、二人にも少しだけ青龍苔を採取させる。骨から剥ぎ取ると、青龍苔は光を失った。


「あら……採取すると、こんなに可愛らしくなるのね」


 生えているときの神秘的な輝きを失った苔は、苔の本来の色を思い出す。乳白色にほんの少しだけ青い絵具を混ぜたような薄い水色をした硬い苔は、小指の先ほどの大きさに切り出せば、愛らしいペンダントにもなるだろう。


「魔力を注げばまた光るよ。そういう素材なんだ。アクセサリーに加工したら、魔法研究部のみんなへのお土産にならないかな」


 アンリの意見に賛同したウィルとアイラは、必要な分だけ青龍苔を切り出した。

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