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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(23)

 その日の昼、食堂でアンリたちを見つけたミルナは嬉しそうに駆け寄って、勝手に同じ卓に着いた。彼女に頼まれて、アンリは周囲に防音の結界を張る。


「実はアンリくんにお願いがあるの。ドラゴンの洞窟まで行って、青龍苔を採ってきてほしいのよ。お願いっ」


 両手を顔の前に合わせて頭を下げるミルナを、アンリは驚きとともに見下ろした。ちょうど今しがた研究室で聞いた青龍苔の話を、まさかこんなにすぐにミルナの口から聞くとは思っていなかった。


 ドラゴンの出現で青龍苔が採れなくなった。ミリーはそう言っていた。しかし通常、洞窟で発見されたドラゴンは、その日か翌日には保護されて北の山脈に返される。それが数日経った今でも、アンリに頼まなければ洞窟内の素材が採取できないということは。


「ええと……もしかして、あのドラゴンが今も洞窟に?」


 アンリの問いに、ミルナは「そうなのよ」と困った調子でため息をついた。


「もめているのよ、いろんなお偉いさんたちが。なにしろ子供のドラゴンなんて初めてでしょう? 国で飼うべきだとか、北へ返すべきだとか、どうせ死ぬなら……とか。とにかく扱いが決まらなくて、結局まだあの洞窟に留め置いているの。本当はこのあいだの野外活動で青龍苔をたくさん採ってこようと思っていたのに、それがダメになったどころか、このままだとしばらくは洞窟に入れそうにないわ」


 困るのよね、とミルナは言う。その憂いを帯びた表情を前に、新人であれば二つ返事で彼女の願いを受け入れてしまうかもしれない。


 しかし、アンリは新人ではない。ミルナが常識的にひどく無茶なことを言っていることに気付くくらいには経験がある。


「……つまり俺に、わざわざドラゴンがいるとわかっている洞窟に、素材を摂りに行けと?」


 うっと声を詰まらせたミルナは、言葉を探すように視線をさまよわせた。しかしすぐに観念した様子で、むしろ開き直って口を尖らせる。


「そうよ、そのとおり。だから、それができる人にお願いしているんじゃないの。それに、アンリくんたちの研究にも青龍苔は必要でしょう?」


「まあ、そうですね」


「でしょ? 私が頼む分と一緒に、そっちの研究室で必要な分を採ってきてしまえばいいわ。そうすれば、貴方たち三人で、同じ研究を続けられるわよ」


 落ち着きを取り戻したミルナはにこにこと微笑んで、アンリの横に座るウィルとアイラを見た。話に耳を傾けながら黙々と食事をしていた二人は、突然彼女の視線が自分たちに向いたことに驚いて顔を上げる。


 二人に話が飛び火するのを感じて、アンリは嘆息した。仕方がない。軽く両手を挙げて、降参の意を示してみせる。


「わかりました、いいですよ。……でも、ひとつだけ条件をいいですか?」


 最初から、こうなるだろうとは思っていた。ミルナのお願いをアンリが断れる可能性など、百に一つあるかないか程度だ。彼女は本気でやりたいことには、全力を尽くす。アンリの逃げ道など、最初からふさがれているに違いない。


 それなら追い詰められてから受託するより、早めに折れて、自分に都合の良い条件を付けてしまったほうがマシだ。


「いいわ、何でも言ってちょうだい。私にできる範囲ならやってあげる」


 アンリの思惑も、ミルナは織り込み済みなのだろう。自信に満ちた笑みを浮かべてアンリの条件を待っている。彼女を驚かせてやろうと、アンリはやや勿体ぶって間を置いた。隣で驚き、しかし口を挟まずに黙ったままアンリの言葉を待つウィルとアイラに少しだけ目を遣って、それから、あえてゆっくりと答える。


「ウィルとアイラも、一緒に連れて行っていいですか?」


 ミルナはきっと、今研究している試作品の提供だとか、ほかの融通だとかが条件に挙がってくると思っていたに違いない。予想が外れて、目をまん丸にしている。


 そんなミルナの顔を見て、アンリは溜飲が下がった思いで満足げに微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公ただのイエスマンできもすぎなんだけど。 1番隊に所属してるんでしょ?立場的にはかなり上の人間なのになんでイエスマンになってんの?断れる権限持ってるし、しかも今は学生として来てるのにそこ…
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