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 翌朝の入学式、アンリは想像していたよりもずっと気楽な足取りで校舎へ向かった。


 というのも昨晩、寮母のサラサやウィルから、寮と学園とのことを丁寧に教えてもらったおかげだ。初めての学園生活のため、知らないことが多いことが不安の種となっていたが、二人のおかげで不安はずいぶんと解消されていた。


「こんな当たり前のことも知らないなんて、君、本当に初等科卒業した?」


 と話の途中でウィルに驚かれたが、例の設定どおり、病気がちで初等科にほとんど通っていないと伝えておいた。ウィルは同情を含んだ複雑な顔で頷いてから、わからないことがあったら僕を頼ってね、と頼もしいことを言ってくれた。


 そうして今日、アンリは臙脂色をした中等科の制服に身を包み、ウィルとともに学園の講堂への道のりを歩いている。


 寮から学園までは、歩いて五分ほどの距離にある。歩くのは面倒だな、とアンリは思うのだが、やはり徒歩が一般的な交通手段のようだ。寮からの道には、ウィルやアンリと同じく真新しい制服に身を包んだ新入生たちが溢れている。


 時々道の真ん中を、豪華な装飾を施した馬車が、生徒たちを追い抜いていった。


 不思議に思って目で追うアンリに、ウィルが丁寧に解説してくれる。


「あれはたぶん、先生たちだよ。生徒は馬車通学が認められていないから」


「へえ。でも、寮生ばかりじゃないんだね」


「徒歩圏内なら外からの通学も認められているよ。この近隣は貴族屋敷の区域だから、外から通っているのはだいたい貴族ってことになるかな」


 校内では身分や貴賤による差別は禁止されているから、貴族であることに大きな意味はないけれどね、とウィルは付け足した。


 やがて入学式の執り行われる講堂に辿り着く。講堂の入口の掲示板で、新入生のクラス分けが発表されていた。ウィルは一組、アンリは三組に分けられている。


 クラスは事前に実施された入学検査の結果に基づいて、魔法力のレベル別に十に分かれているという。一組が成績上位、十組が成績下位というわかりやすいクラス分けだ。


 アンリは院長先生や隊長の教えに従い力を抑えて入学前検査に臨んだのだが、ウィルとクラスが分かれてしまう結果になるのなら、もう少し上の結果を狙っておけばよかったと後悔した。


「この後はクラス別か。それじゃあアンリ、また寮で」


「うん、また」


 ウィルと手を振って別れ、アンリは指定された三組の列に並ぶ。ざわざわと話し声がするところから考えると、知り合い同士は多いらしい。控えめに待つべきか、積極的に周りに話しかけて友人の和を広げるべきか、悩むところだ。


「ねえ! この列、三組であってる?」


 悩むアンリの肩を、後ろからぽんと誰かが叩いた。


 振り返ると、アンリに比べて頭一つ背丈の低い少女が、ショートボブに切りそろえた金髪をふわりと揺らして首を傾げながら、アンリを見上げていた。


「ああ、うん。三組のはず」


「ありがとう! 同じクラスだね。私、マリア。あなたは?」


「俺はアンリ。よろしく」


 マリアと自己紹介をしていると、すぐに周りの別の生徒たちからも声をかけられた。どうやら皆、話しかけるタイミングをうかがっていたらしい。


 話してみると誰もが初日の不安や緊張を抱えているということがわかり、アンリはほっと息をついた。

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