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それでも流石にプロと言うべきか。業務の説明となると、ミリーはそれまでの失態など露ほども感じさせない滑らかな口調で話し始めた。
「私たちの部署では、魔法器具の研究をしているの。特に、人体作用型と言われるやつね。たとえば魔法士科の学園生は、入学のときに魔法力の検査をするでしょ? あの検査に使う魔法器具は、触れた人の身体に微弱な魔力を流して、魔力の器の大きさを測るというものなの。ああいう人の身体に干渉するタイプの魔法器具を、人体作用型って言ってね」
話しながらミリーは、自身のブラウスの袖をめくった。露わになった彼女の細い右腕には、銀色の腕輪。ファッション用にしてはやや太く無骨なそれを、彼女は「いいでしょ」と言ってアンリたちに見せびらかした。
「これは人体作用型の魔法器具の中でも、装着型と呼ばれるタイプ。ブレスレットとかネックレスとかイヤリングとかの形をしていて、身体に装着することで機能するの。たとえば私は魔力の器がほかの人より小さいのだけれど、この魔法器具を着けることで、使える魔力量が数倍に増える」
ミリーは人差し指を上に向け、その先に小さな炎を浮かべて見せた。簡単な火魔法だ。しかし、もともとのミリーの魔力量ではこれすらできないのだという。
「ここの部署では、特にこういう装着型で、装着した人の能力を補助する魔法器具の研究をしているの。メインは既存製品の改良ね。新規製品の開発とかは、ほかに担当している部署があるから」
ミルナの部署かな、とアンリは勝手に思う。実のところ、協力することは多いがミルナがどんな部署で何を主な仕事としているのか、アンリはよく知らないのだ。ただ協力を頼まれる内容は、それまでに例のない製品の開発であったり、その試験である場合が多い。
「そして今、ここで主に進めている研究は三つ。ひとつは私の着けているこれ、魔力貯蓄具。それから、魔法を使うのに必要な魔力量を抑えるための、魔法補助具」
ミリーは左腕を掲げて見せた。その腕には、右腕の腕輪と異なる金色の腕輪が輝いている。これが魔法補助具だと言って、彼女は左手の人差し指からパチパチと小さな稲妻を走らせてみせた。右腕の腕輪で魔力量を増やし、左腕の腕輪で魔法への変換効率を上げる。この二つの魔法器具の効力で、他人より魔力の器が劣っているというミリーでも、魔力消費の大きい戦闘魔法を使えるのだという。
「最後に、これは使う人を選ぶ魔法器具だけれど……」
そう言ってミリーがテーブルの下から取り出したのは、銀色の腕輪型をした魔法器具。それには見覚えがあった。アンリだけではない。ウィルもアイラも見たことのある魔法器具だった。
「魔力放出困難症を改善するための魔法器具。これはまだ市販されていないから、知名度は低いね。でも実用化目前で、うちの部署では、もうその改良のために動いているの。……興味ありそうだね」
突然前のめりになったウィルやアイラに、ミリーはにっこりと微笑んだ。
「こっちで選んだ研究に参加してもらおうと思ってたんだけど、その調子だと最後のこれが一番よさそうかな。まあ、予想はしていたけど。なんと言っても、元々の開発者さんがいるわけだし」
ミリーの目がはっきりとアンリに向いた。しまった、とアンリが思ったときにはもう遅い。アイラとウィルの見開かれた目がアンリを向いている。
戦闘職員であることは、既に二人にはバレている。しかしマリアの使う魔法器具は、表向きにはウィルの父親の伝手で入手したことにしているのだ。ウィルにしても、アンリが戦闘職員としての伝手で入手した程度にしか思っていなかったはずだ。
アンリが開発者の一人であるなど、まだ学園の誰にも話してはいない。
「……あれ? 私、まずいこと言っちゃった?」
三人の反応に、ミリーがやや焦った様子で言った。
(まずいに決まってるでしょ……)
しかし、悪いのは彼女じゃない。おそらく彼女は、アンリの正体がここの二人に知れていることを知っていたのだろう。その内容に、魔法器具の開発に携わっていることまで含まれていると思っていたに違いない。悪いのは、中途半端な情報を伝えたハーミルだ。
アンリは心中に浮かんだ悪態を留め置き、表面上は小さく舌打ちするだけに抑えてその場をやり過ごした。




