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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(19)

 二日の休日を終えた後は、予定通りに防衛局本部内の研究棟で、体験カリキュラムの続きが行われた。


 学園生たちは三、四人ずつ五つのグループに分かれ、それぞれ研究棟内の指定された研究室で研究活動に参加することになっている。アンリはウィル、アイラと三人でグループを作り、ミルナの同期職員であるハーミルという男に連れられて、研究棟西側三階の研究室へと向かった。


 研究棟では、アンリはミルナの研究室がある東側三階と、実験室のある別棟にしか出入りしたことがない。初めて訪れる西側の研究室はやや新鮮に感じられた。とはいえ同じ研究棟、様子ががらりと変わるわけではないだろうと、たかを括っていたのだが。


「…………こわっ」


 ドアにはめ込まれた硝子越しに廊下から研究室内を覗いたアンリは、思わず小声で呟いた。呟きは、静かな廊下でことのほか大きく響く。それでも誰もたしなめないのは、ウィルとアイラも同様に思ったからだろう。声にこそ出さないが、研究室を覗いたまま表情が固まっている。引率のハーミルは、三人の反応に苦笑していた。


「すまない。いつもはこんな様子ではないのだが……」


 研究室内では十人ほどが静かに机に向かい、ノートにペンを走らせていた。それだけならよいのだが、特筆すべきは彼らの鬼気迫る表情とペンを走らせるスピードだ。駆り立てられるように、凄まじい勢いでノートに何かを書き込んでいる。一心不乱とはこのためにある言葉かと思われるその様子に、アンリたちは怯んだ。


「……ええっと。僕たちの研修先はここであっていますか?」


 一縷の望みをかけたウィルの言葉に、ハーミルは残念ながら、と静かに頷く。


「普段はもっと和気藹々としているんだがね。今日はたぶん、体験カリキュラムの学園生たちが来るということで気合いが入っているんだろう」


 彼がノックもなしに扉を開けると、それまで齧り付くように机に向かっていた職員たちが、一斉に顔をあげた。やや血走った二十の眼が、一斉にアンリたちを向く。


 思わずアンリたちが一歩下がると、職員たちははっとした様子でガタガタと椅子から立ち上がった。


「もうそんな時間っ!」


「い、今お茶いれますね」


「間に合わなかったー……」


 学園生を目にした職員たちの反応はばらばらだったが、ひとまず、ようやく人間らしい反応が見られたことに、アンリたちはほっと胸を撫で下ろした。




 アンリたちは部屋の片隅にある、打ち合わせ用と思しき円卓に案内された。短期間の体験学習のため、通常の机は用意できないということらしい。それでも三人で使うには十分に広い円卓だ。席に着いた三人の前に、紅茶のカップが置かれた。


「恥ずかしいところを見せてしまってごめんね」


 紅茶を持って来た職員は、俯きがちに言った。恥じらってやや顔を赤らめる様子が愛らしい若い女性職員だが、先ほどの気迫を目にしているアンリたちは戸惑うほかない。


「この子は入って三年目で、この部署では一番若いんだ。この子を指導員にするから、わからないことがあったら何でも聞いてくれ」


「よろしくね」


 ミリーと名乗った彼女は自分用にも紅茶を用意してアンリたちの向かいに着席する。まずはお茶でも飲みながらゆっくり気楽に仕事の話をしようという、体験カリキュラムに緊張する学園生たちへの優しい気遣いらしい。


 それなら先ほどの鬼気迫る雰囲気はいったい何だったのか。不審に思ったアンリたちが黙ったままミリーを見つめると、彼女は照れた様子で笑って頭を掻いた。


「ええっと、ごめんなさい。一番早くレポートを書き終えた人の研究に、君たちに参加してもらおうっていう話になって……今年の学園生たちは優秀だって聞いていたから、皆、思わず夢中になっちゃったの」


 へらりと笑った彼女の視線が、一瞬だけ意味ありげにアンリを向いた。つまり、彼らは今日来る学園生に上級魔法戦闘職員が含まれていることを知っていて、どの研究にアンリを参加させるかと競っていたわけだ。


 ……誰だ、俺が上級魔法戦闘職員だってばらしたやつ。


 アンリは半眼になって、窓際の自席に戻ったハーミルを睨んだ。この部署の中で、以前からアンリと顔見知りだったのはハーミルしかいない。不自然に視線を逸らしたハーミルを見て、アンリは確信した。あいつだ。


「ま、まあでも、結局誰もレポート書き終えられなかったから、仕切り直しかな! 皆には好きな研究に参加してもらって大丈夫だよ。ここでどんな研究をしているのか、これから順番に説明するから、好きな研究を選んでね」


 アンリの様子に怯んだのだろうか、ミリーはやや焦ったように、早口に言う。


 アンリはこれからの活動を不安に思い、ため息をついた。

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