(17)
休みの二日目、朝食の食堂。
どこか首都の名所でも案内してくれないかと言うウィルとアイラを前に、アンリは心底困り果てて唸った。首都で育ったとはいえ、あまり街中を出歩いたことはないのだ。政治の街である首都に、子供にとって面白みのある場所がなかったためでもあった。
それはそのまま、アンリが二人を案内できる場所がないことを意味している。
「そういえば、アンリの家は首都なのでしょう? この近くではないの?」
「家というか、俺が育ったのは孤児院だよ。防衛局附属だから、ここと同じ敷地内」
アンリの言葉に、アイラは目を見開いた。そういえば孤児院育ちであることを、アイラには言っていなかったっけ。突然こんなことを言われてアイラも気まずいだろうと、アンリはほかの話題を探す。しかしそれを思い付く前に、アイラが口を開いた。
「もしよければ、その孤児院に行ってみたいわ」
友達を連れてきたと言ってアンリがウィルとアイラを紹介すると、孤児院で皆の母と呼ばれるサリー院長は、驚きと喜びを半々にした、とびきりの笑顔で迎え入れてくれた。
「まさかあのアンリさんが、こんな短いあいだにお友達を二人も連れてくるなんて!」
「その言い方は……」
「アンリさんったら初等科をさぼってばかりだったから、お友達づくりが苦手なんですよ」
「あの、院長先生……」
「お二人とも、これからもアンリさんと仲良くしてあげてくださいね」
にこにこと話しながらもてきぱきと紅茶を入れて、応接間で三人に振る舞うサリー院長。その言葉のいちいちにアンリは口を挟みたくなるのだが、彼女はその隙を与えない。
当然ながら初めて彼女と顔を合わせたウィルとアイラが物を申せるわけもなく、三人はただただ、彼女の話の聞き役となる。
「アンリさんは昔から同い年のお友達を作るのが大の苦手で。年下の子の面倒はよく見るんですけれど、少し年上の子とはよく喧嘩になっていましたね。だいぶ上の、アンリさんを歳の離れた弟か、むしろ子供のように扱ってくれる人とは仲良くできるんですけれど。いかんせん、同い年の子となるとなかなか話しかけられずに、むしろそっぽを向いてしまって」
「い、院長先生、そんな昔の話をしなくても……」
「あら、昔なものですか。ちょうど一年前でしたか。一時滞在していた同学年の女の子を、私の部屋では可愛い可愛いと言いながら、結局本人には一度も」
「あーっ! 先生、忘れて! それは忘れてくださいってば!」
慌てるアンリの様子に、とうとうウィルが吹き出した。アイラも呆れた様子で、苦笑に近い笑みを浮かべている。決まりが悪くなったアンリだけが、行儀悪く頭を抱えた。
「……連れてこなきゃ良かった」
「あら、なんてことを言うのです。これでも親代わりに愛情込めてアンリさんを育てたつもりですよ。お友達のひとりやふたり、紹介してくれたっていいではありませんか」
それはいいがもっと普通に当たり障りのないことを話してくれと、アンリは嘆くように言う。普段、魔法の講義をするときの大人びた様子からはなかなか想像がつかない子供らしいアンリの様子を、ウィルとアイラは微笑ましく眺めた。




