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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(16)

 野外活動中に起こった出来事をうんざりとした調子で語り終えたアンリを前に、ウィルはしばらく何も言えなかった。アンリの隣で話を補足していたアイラは、自分が道に迷ったことまで余すことなくバラされて、やや不服そうだ。


 場所は研究部職員寮の食堂。五日間の野外活動を終えて帰ってきた学園生たちが久々のまともな夕食を賑やかに楽しむ片隅で、三人の一年生がまとまって食事している様子はそれほど不自然ではなかった。しかしよく見た者には、違和感を与えるかもしれない。彼らの口が会話をしているように動いているにもかかわらず、彼らの席からは、なんの会話の音も聞こえてこなかった。


 あれやこれやの愚痴をウィルに話したかったアンリが、あらかじめ防音用の結界を張っていた。魔法の無駄遣いだとアイラは眉をしかめたが、アンリは気にしない。


「それで、一緒に行った先輩たちにはアンリのことを?」


「話したよ、一番隊所属ってところまで全部。……別に所属まで話さなくても良かったのかな。魔法が意外と使えるってだけでも、話は収まったような気がする……」


「あら、どんなに魔法が使えるにしても、一般人が隊員のドラゴン討伐に手を出したとなるとまずいわ。やっぱり戦闘部の隊員だという説明は必要だったのではないかしら」


 フォローするアイラの言葉にも、アンリは慰められた様子もなくため息をつく。話のあまりの壮大さに、ウィルはかける言葉も見つからずに苦笑する。


「それで、ウィリアムは? 野外活動ではどこで何をしていたの?」


 ため息ばかりつくアンリへの声かけを諦めて、アイラはウィルに話を向けた。ウィルは肩をすくめてみせる。


「二人に比べると普通のことしかしていないよ。黒深林の西のほうに特に大きな樹が生えているところがあって。その周囲で、薬草やキノコを採取したんだ。大型の動物も出なかったし、近くの小さな小屋で寝泊まりさせてもらったから、平和で過ごしやすかったよ」


「俺もそういう、普通の野外活動がしたかったな……」


「僕はアンリが羨ましいよ。ドラゴンに会うなんて、普通はできない体験じゃないか」


 平行線をたどる二人の話を無視して、アイラは静かに手元のスープで喉を潤した。



 翌日から二日間は休日とされていた。五日間の野外活動の疲れをとったうえで次の活動に移るという、学園生に優しいスケジュールだ。


 ドラゴンの発見により野外活動が三日で終わったアンリたちにも、休みは同じ日程で与えられている。しかし、二日間の休みの一日目に、全員がミルナの研究室に集められた。


「皆、今回は本当にごめんなさいね。大切な野外活動の時間が、二日も短くなってしまって」


 ミルナは子供ドラゴンを発見したことによる興奮からようやく覚めて、指導員としての役割を思い出したらしい。洞窟でのとぼけたような軽い調子ではなく、心底申し訳なさそうに頭を下げた。


「関係者になってしまった貴方たちには、話せる範囲で顛末を知らせておくわ」


 ミルナの話によると、あの後、戦闘部の職員たちによる大規模な捜索が行われたらしい。果たして捜し物は、ドラゴンの洞窟から北へ山二つ越えたところに見つかった。谷底に、大型ドラゴンの死骸が横たわっていたという。


「まだ調査は継続中よ。本当に親子かどうかはわからないけれど、死骸の近くに子供のドラゴンの足跡があったわ。少なくとも、一緒に行動していたことには間違いない」


 ともに群れからはぐれた二頭が山で迷い、事故か病気かで大人が先に死んだのか。ひとりになった子ドラゴンが、ほかの仲間の気配を求めて、ドラゴンの洞窟にたどり着いたというのがミルナたち研究者の推測だ。


「ドラゴンの死骸から漏れた魔力で、谷に大きな魔力溜まりが発生していたわ。洞窟の近くに攻撃的な動物が増えていたのは、そのせいでしょう。死骸を回収したから、魔力溜まりはじきになくなるわね」


「ドラゴンの子供はどうなったんですか?」


 スグルの問いに、ミルナは困ったように眉をハの字に歪めて首を傾げた。


「それが、まだ決まらないのよね。とりあえず拘束は解いて、あの洞窟から出ないように結界を張っているわ。このあとは……保護して北の山脈に放すにしても、子供だから群れに戻れるかわからないし。かといって研究室に連れて帰ってきても危険だし、首都では飼えないわ」


 ここ数日ずっとそれで悩んでいるのだと、ミルナは腕を組んでため息をついた。

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