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続く道のりでは先頭にミルナとサニアが並び、最後尾にグライツとスグルが並び、その間をアンリとアイラが歩くような隊列になった。
護衛の仕事があるからと、話しながら歩くことに渋い顔をしたグライツだったが、ミルナが「後輩に戦闘職の魅力を教えるのも仕事のうちよ」などともっともらしいことを言って私語を認めると、ことのほか打ち解けた様子でスグルに戦闘職の仕事のあれやこれやを話して聞かせ始めた。
ちなみに「危険な動物なんてそうそう出ないわ。それに、腕輪があるから大丈夫」という理屈を説いたミルナがちらりとアンリに視線を向けたその意味を、アンリは正しく理解している。
外敵察知機能に優れた試作品の腕輪だが、あいにく迎撃機能は一回限りの使い切りなのだ。それを知っているアンリは腕輪の索敵範囲よりも外側に索敵用の結界を張り、引っかかった動物のうち凶暴なものを他の誰にも気付かれないうちに魔法で静かに退治するという、器用なことをしながら歩いたのだった。もちろん、グライツや上級生たちに気付かれないよう、隠蔽魔法を使いながら。
「アンリ、あなた何か魔法を使っているわよね」
「……前から思っていたけど、アイラの観察力ってすごいよな。生まれつき?」
アンリは以前、学園で隠蔽しながら使った魔法を見破られたときのことを思い出す。希代の新入生との呼び名も伊達ではないのだ。魔法力こそアンリに遠く及ばないが、その魔法探知力は、アンリに並ぶかもしれない。
「これくらい、少し練習すればできるでしょう?」
「それ、他の皆の前では絶対に言わない方がいいと思うよ。喧嘩になるから」
そうかしら、と首を傾げるアイラに並び、アンリはため息をつきながら歩いた。
日が暮れる少し前に、六人はドラゴンの洞窟手前の防衛局駐在所にたどり着いた。小さな山小屋のような建物から出てきた若い職員に、ミルナは無造作に許可証を渡す。
「滞在は今日と明日の二泊で、洞窟に入るのは明日だけの予定よ。六人でこの中に泊まるのは無理だろうし、空き地にテントを張らせてもらうわ」
「すみません、お願いします。風呂とかトイレとかは、小屋の中のを使ってもらって構いませんから。ほかにも何かあれば言ってくださいね」
気安く応じた職員は、おそらくミルナと顔馴染みなのだろう。もしかすると、彼も新人のときに被害に遭った一人かもしれない。彼の応対に、ミルナはにっこりと微笑んだ。
「ありがと、助かるわ。まあ、天気も良さそうだし、絶好のキャンプ日和でしょ。気を遣わないで」
「そうですね。ああ、ただ動物には気を付けてください。最近、攻撃的な動物が少し多いんですよ。どこかに魔力溜まりができているのかも」
「あら、そう。じゃあ夜はちゃんと見張りを立てないとね」
ミルナはやや眉を顰めて後ろのメンバーを振り返った。通常であれば危険な動植物の少ない区域なのだ。簡単な鳥獣除けの魔法器具でも設置するだけで夜を過ごそうと思っていたのだろう。
体験カリキュラムに参加しているだけの学園生ばかりのメンバーで夜間に見張りを立てるとなると、たった一人の正式な戦闘職であるグライツの負担が重くなりすぎる。ミルナの目が一瞬だけアンリに向けられたが、それはすぐに逸らされた。それだけのことのためにアンリの身分を明かそうとは、さすがのミルナも思わないらしい。
「……交代で見張りをしましょう。二人一組なら、三交代にできるわ。どうしても学園生だけになってしまう時間ができるけれど、そこはここの職員さんたちにも気を配ってもらえば、大丈夫よね」
ミルナは再び、駐在所の職員に向き直ってにこりと微笑んだ。学園生たちの夜間の警護までは仕事に入っていないだろうにと、アンリは彼を気の毒に思う。
「それじゃあ二晩、よろしく頼むわね」
聖女の微笑みに見せかけた悪魔の笑みを向けられて、彼は顔をひきつらせていた。




