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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(10)

 黒い影のように見えたものは、野兎だった。通常の野兎よりもやや大きく、やや黒ずんだ体躯は、どこかで魔力を大量に取り込んだ証だ。人を襲うほど気性が荒いのも、取り込んだ魔力の影響だろう。それでもこの程度の魔力なら自然と抜けるだろうとの判断で、気絶して地面に転がっているのをそのまま放置することにした。


「運が悪ければ他の動物に食べられちゃうかもしれないけど、運が良ければ、魔力が抜けて普通の兎に戻れるわ」


 軽い調子でそう言うと、ミルナは何事もなかったかのように元の道をさっさと歩き始めた。慌ててそれに続いたサニアとスグルが、ミルナのすぐ隣に並ぶ。アンリとアイラは後ろから、上級生たちの興奮した様子を眺めて歩くことになった。


 ミルナの横で、サニアはミルナの腕に熱い視線を送る。


「ミルナさん、さっきのは何ですか? 魔法器具ですか?」


「そうよ。試作品だけれど、なかなか使えるみたいでよかったわ」


「試作品? ただの鳥獣除けではないんですか?」


 違うわよと言ってミルナは、腕輪がよく見えるように、右手を前に掲げてみせた。


「一般の鳥獣除けは、単純に攻撃するだけのものでしょう? これは敵意を持った動物の接近を感知して、教えてくれるの」


 この辺りが赤く光るのだと、ミルナは腕輪の一点を指差した。硝子のように透明な石が三つ、装飾のようにあしらわれており、そのうちのひとつが淡い桃色に輝いている。敵が近づくと、その石が赤く瞬くのだとミルナは言った。


 女の細腕にも似合う可愛らしい見た目に、サニアが目を輝かせる。


「すごい、おしゃれですね。魔法器具って、実用的でも見た目がいまいちっていうのばかりだと思ってました」


「ふふ、そうよね。一般に普及させるなら、ファッション性も大切だと思うの。研究部に来れば、そういう研究もできるわよ。どう? 研究の道に進んでみない?」


 同じ防衛局といえど地味なイメージが定着している研究部の志願者は、戦闘部局に比べると少ない。ミルナはこんなところで新人を勧誘しようとしているようだ。


 サニアはミルナの甘い言葉を受け、すぐにでも首を縦に振りそうな様子だった。そうならなかったのは、彼女の目の前で、腕輪の石が再び赤く瞬き始めたからだ。


「あら、また来たわね」


「皆伏せろ! 鳥だ!」


 護衛のグライツのかけ声に、全員すぐに膝を折り、その場にしゃがみ込んだ。突然の指示に従えるのは、さすがに魔法士科学園の成績上位者といったところか。


 ごおっと空気を斬り裂く低い音が、しゃがんだアンリたちの頭上に響く。低い姿勢を保ったままアンリが視線だけで上を窺うと、頭上すぐ近くを、一羽の大きな鷲が滑るように薙いでいった。直後、鷲を追うように、細く長い剣が宙を薙ぐ。


(あの剣、伸びるのか……)


 通常の剣ではあり得ない広範囲に届く剣。アンリはその剣の動きを注視する。


 バタバタッと、激しいはばたきの音が聞こえた。アンリたちの左前方で、剣が鷲に追いついたらしい。胴体を深く斬られた鷲は、ドサリと重い音を立てて地面に落ちた。地面に打ち付けるように数度暴れた羽も、すぐに力を失う。


 敵を倒したことがわかって、しゃがんでいた面々はゆっくりと体を起こし、立ち上がった。護衛の仕事を果たしたグライツは、念のためにと倒した鷲に近寄ってとどめを刺す。その後ろ姿を、スグルが憧憬の目で見つめていた。


「……やっぱり戦闘職って、格好いいよな」


 サニアは研究職志望で、スグルは戦闘職志望……彼らの様子を眺めながら、アンリは頭の中で彼らの情報を簡潔に整理した。

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