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上級魔法戦闘職員が今さら中等科学園に通う意味  作者: 南波なな
第2章 体験カリキュラム
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(6)

 ドラゴンという生物がいる。


 小さな個体でも家と同じくらいの大きさをした巨大な生物で、硬い鱗に覆われた蜥蜴のような体に、鋭い牙と鋭い爪、さらに蝙蝠のような翼を持っている。通常は北方の山脈の奥地に群れで棲息しているが、稀に群れからはぐれた個体が人の住む街の近くまで飛んでくることがある。


 基本的に穏やかな種ではあるが、肉食であり、特に群れからはぐれた個体は混乱状態に陥っていることが多い。このため、はぐれドラゴンは最上級の警戒が必要な危険生物として指定されている。


「明日行く『ドラゴンの洞窟』は、数年に一度くらいの頻度ではぐれドラゴンが現れる場所なのよ」


 宿の食堂で、夕食を終えて食器を片付けた卓上に国全体を表す大きな地図を広げ、ミルナが明日の行程について話し始めた。


 そもそも今夜から野宿だと思い込んでいた学園生たちは、黒深林を抜け、近くの集落の宿屋で一泊することになったところでどよめいた。ミルナ曰く、覚悟してもらうために四泊五日のキャンプと伝えたが、ほかの班も含め、基本的に四泊のうち二泊程度は近隣の宿や小屋など、屋根のあるところに宿泊できるよう手配しているらしい。


「いくら元気な子供たちだからって、五日間も野外活動を続けられるなんて思っていないわ。五日間野宿なんて私も嫌よ。お風呂入れないし」


 などという説明を受けているうちに夕食を終え、本題である明日以降の計画については食事後のミーティングとなったのだ。


「ドラゴンには仲間の気配をたどる力があるのよ。群れからはぐれたドラゴンは近場で他のドラゴンの気配を探って、過去にはぐれドラゴンが滞在した洞窟とかを住処にしてしまうの。だから一度ドラゴンが現れた場所には、何度もドラゴンが現れる」


 ミルナは地図の上に小さな赤い石を七つ置く。位置はばらばらだが、大きな都市からは離れた、森や山の奥地が多いようだ。


「これが最近、複数回ドラゴンが現れた場所よ。さすがに人の多い街にはあまり近寄らないみたいね。場所によってドラゴンの湖とか、ドラゴンの山とか、ドラゴンの窪地とか呼ばれているんだけど……私たちの目的地は、ここ」


 ミルナの細い指が、散らばった赤い石のひとつをパチリと押さえた。七つの石の中で、もっとも首都に近い。首都から黒深林を北へ抜け、やや東に逸れたところ。低い山がいくつか連なる小さな山脈の麓のあたりに置かれた石だ。


「このあたりは火山活動の影響で洞窟が多いの。そのうちのひとつが『ドラゴンの洞窟』と呼ばれているわ」


 数年に一度ドラゴンが現れるというその場所に、前回ドラゴンが訪れたのは二年前のことだという。群れからはぐれたドラゴンは、混乱のあまり興奮し、ひどく暴れ回ったそうだ。そのはばたきから生まれた竜巻で近くの集落の家が崩壊し、強い咆哮に住民たちが倒れた。


 幸いにも死者が出なかったのは、大きな都市からは遠かったことと、早期に防衛局の部隊が投入されたことによる。ドラゴンは魔法で眠らされ、仲間がいるであろう北の山脈近くに放された。


「それなら、もうそこにドラゴンはいないんですよね。なぜ危険なんです?」


 スグルが首を傾げて尋ねる。ミルナはつまらなそうに肩をすくめた。


「いつ次のドラゴンが現れるかわからないからよ。普段は危険な動物も少ない安全な地域なんだけれど、仕方ないわね」


 次にミルナは、地図の上に一枚の小さな紙を広げた。便箋サイズのその紙には、華々しくも細かい装飾文字が並んでいる。この班のメンバーの名前が列記されているようだ。


 皆がその紙に視線を向けるなか、ミルナは得意げに胸をそらせた。


「これが立入許可証よ。普通なら上級戦闘職員の同行がないともらえないのだけれど、今回は未来ある若者たちに貴重な経験を積んでもらうってことで、頑張って頼み込んで、特別に許可を出してもらいました!」


 サニアとスグルは、驚きに目を見開いた。あらかじめ聞いていたのであろう護衛のグライツは、驚きこそしないが誇らしく思っていることが見て取れる。


 一方で、アイラは胡散臭そうに目を細めただけだった。同じように、アンリも表情を消して沈黙するしかない。


 頑張って頼み込んだのでも、特別な許可が出たのでもないことを二人は知っている。


 上級魔法戦闘職員が同行するのだから、許可は出て当然なのだ。

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