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翌朝。アンリたちは野外活動の道具を背負い、首都の出口に集合した。
「さあ、みんな。想像していた首都での活動とは違うかもしれないけれど、これも大事なお仕事よ。出発しましょう」
ミルナの声かけを合図に、学園生たちは街の門を出る。昨日街に入ったときとは別の、首都から北へ延びる道に繋がる小さな門だ。昨日は馬車での旅だったが、本日は徒歩での移動となる。それぞれ自分の胴体ほど大きな荷を担ぎ、ミルナの先導でやや早足に道を進んだ。
体験カリキュラムの初めの五日間は、首都近郊に広がる「黒深林」と呼ばれる森での野外活動となる。参加者は学園生十六人。それに防衛局から指導員として研究職員四人、護衛として戦闘職員四人がつく。手厚いうえに、憧れの戦闘職員を間近で見られるという、学園生にとっては豪華で贅沢な行軍だ。
学園生以外の参加者たちは、すでに黒深林の入口で待機しているという。野外活動に慣れない学園生たちのために、先に現地の下見をして、場を整えてくれているとのことだった。彼らを必要以上に待たせてはならないと、学園生たちはミルナに付いて必死に歩く。
果たして黒深林の入口にたどり着いた学園生たちは、驚きとも感心ともとれる表情で、目の前にそびえる木々を見上げた。人の背丈の十数倍の高さを誇る木が、天に向かって一直線に伸びている。
それが一本だけなら珍しくもない。その辺りの街や村にもあるし、そうした大木をシンボルとして観光客を招く街も珍しくない。
しかしこの森がすごいのは、そんな樹木が群として連なり、大きな森を形成していることだ。街の門を出たあたりから黒っぽく森の影は見えていたが、近寄って、左右の端が見通せないほどに広く巨木が連なっているのを見ると、その壮大さが一層強く感じられた。
実のところ地図の上では、それほど大きな森ではない。東西には幅広いが、奥行きの狭い森なのだ。徒歩でも半日歩けば、奥の平野に抜けることができる。
それでも森の入口から奥が見通せるわけではない。むしろ左右に広く延々と続いている様子は、見る者に深い森という印象を与える。太い枝や色濃い葉が太陽の光を遮ることで、奥へ行くほど黒ずんで見えるほどに陰っていることも、不気味な印象を手伝っていた。
この中に入るのかとゴクリと唾を飲んだ学園生たちに、ミルナはにっこりと微笑んでみせる。
「大丈夫。『黒深林』なんて呼ばれてはいるけれど、見た目ほど深い森ではないわ。これから五日間、みんなには四人ずつの班に分かれて、この森の近辺で研究材料の採取をしてもらいます。それぞれの班に指導員が一人と護衛が一人つくから、安心して作業に励んでちょうだい」
続いて班分けが発表された。試験の結果を参考に、同じくらいの実力の者たちが集まるように班をわけたのだという。それぞれの実力に合った課題を用意しているとのことだった。
アンリと同じ班になったのは、一年のアイラ・マグネシオンと二年のサニア・パルトリ、スグル・ウォルゴ。指導員はミルナで、護衛には戦闘部局二十五番隊のグライツ・マーズという、年若い少年のような隊員がつくようだ。
「野外生活は慣れないでしょうから、無理はしないように。何かあったら遠慮なく指導員に言ってね。あと、比較的安全な森ではあるけれど、油断はしないこと。護衛についてくれる戦闘職員さんの言うことはちゃんと聞きましょう。以上、何か質問はある?」
全体に向けて最後の注意事項を説明した後、ミルナは質問が出ないことを確認してから、例の、見る者を惑わす笑みを浮かべて大きく一つ頷いた。
「それでは気を付けて。また五日後に会いましょう」
その笑顔一つで、元々志高い学園生たちの士気はさらに向上したらしい。
おうっと力強いかけ声をあげると、班ごとに分かれて行動を開始した。




