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 イーダの街の門より手前の街道近くに降りたアンリは、自身の設定を心の中でおさらいした。入学が決まったときから、隊長やサリー院長と話し合って決めたものだ。


(俺は防衛局職員ではなくて、ただの孤児院出身の十五歳。病気がちで初等科は行っておらず学園生活は初めてだけれど、楽しみにしていた。魔法は一般程度にしか使えない……)


 この設定を考えたのは隊長だった。アンリ自身は自分の立場や魔法能力を隠す必要性を特に感じていなかったのだが、隊長はその点にこだわっていた。


「アンリが能力全開でいったら、中等科学園は大騒ぎになるだろう」


「そうですね。控えめにしておかないと、楽しい学園生活が送れないでしょう」


 隊長の意見に同調したのがサリー院長だった。そうして二人でせっせと先ほどの設定をつくってくれたのだ。


 ちなみにアンリと同年代の一般程度の魔法がどのくらいのものかは、出立前にサリー院長が丁寧に教えてくれた。


「入学の頃に生活魔法であっても魔法の使える人は、全体の一割程度でしょう。ほかの子は、なんの魔法も使えません。戦闘魔法などもってのほかですよ。四年間の学園生活を終えて、ようやくほぼ全員が生活魔法を使えるようになりますが、戦闘魔法が使えるのは全体の三割、上級戦闘魔法に至っては学年に一人使える生徒がいればよいほうです」


「知っていると思うが、重魔法なんて使えるのは大人も含めて国内に十人くらいしかいないからな」


「そもそも中等科の新入生なんて、重魔法の存在すら知りませんからね」


 二人から長々と高説をたまわって、アンリは今後に不安を覚えたものだ。


 七歳から魔法戦闘職員として防衛局に所属しているアンリは、自身が世間知らずであることと、自身の魔法レベルが同年代に比べ勝っていることを自覚している。しかし、まさか中等科学園のレベルがそれほどまでに低いとは。そのうえ、自分がそれに合わせなければならないとは。


「生活魔法を使えなくて、どうやって生活するんですか」


「孤児院のほかの子たちをご覧なさい。生活魔法なんて使っていないでしょう」


「そりゃあ、温かいご飯もお風呂も全部先生たちが用意してくれるし。初等科併設だから活動は徒歩圏内で済むし……」


 そうです、とサリー院長は身を乗り出して強くアンリに諭した。


「人の助けを受け、自分の力の及ぶ範囲で生活する。それだけです」


「はあ、そうですか」


「だいたい、世の中には魔法が一切使えない人もたくさんいるんですよ。生活できないはずがないでしょう」


 サリー院長の話はもっともだ。しかし、物心ついた頃から当たり前のように魔法を使いこなしてきたアンリにとって、魔法を使わない生活などまったく想像がつかなかった。


 その想像できない世界に、ついに飛び込む日が来たのだ。覚悟を決めて、徒歩で街の門をくぐるべく、アンリは一歩を踏み出した。

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