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 修理され、防護壁が三枚に増えた訓練室に、魔法研究部のメンバーとアイラ・マグネシオンが集まった。面々の前にはトウリとアンリが立っている。


 まずはトウリが生徒たちを見渡して、口を開いた。


「先日の模擬戦闘、あれは無効とする。途中で邪魔が入ったからな。勝ち負けはカウントしない。……アイラもアンリも、それでいいな」


 教師の立会いの下、正式に行われた模擬戦闘の結果は、通常なら成績にも反映させることができるものだ。しかし、トウリはそれをしないと言い放った。


 アンリは素直にうなずいたが、アイラはむっつりと唇をへの字に歪めたままだ。もちろん自分が勝っていたなどと主張する気はないだろう。むしろ、あれだけ大差があると見せつけられながら負けを宣告されないことが、プライドの高い彼女には許せないのかもしれない。


「文句があるならもう一度やるか。もちろん、アンリの同意があれば、だが」


「俺は別に構わないけど」


「やらなくていいわよっ。どうせ私が負けるのだから」


 ふてくされているようだ。子供っぽい感情の発露は、さすがに従姉妹同士よく似ている。


「まあ落ち着け。アイラ、お前だって一年にしては……というか、中等科学園生にしては十分すごい。模擬戦闘での動きもなかなかだったぞ」


 トウリとしては本心で言っているのだが、アイラには慰めにしか聞こえなかったのだろう。ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。


 トウリも長く同じ話題を続けはせずに、本題に移った。


「で、実は今日はアンリのことで、ここにいる皆に話がある。こないだのを見たこのメンバーにだけ話すことだ。外には漏らさないと約束してやってほしい」


 そんな前段をつけたうえでアンリの身分が明かされると、それに対する皆の反応は様々だった。ウィルやエリック、イルマークは、なるほどと納得したように頷いた。驚きに目をまん丸に見開いたのは、マリアとハーツだ。


 そして彼らとは対照的に、アイラは何ら反応を示さなかった。


「アイラは驚かないんだな」


「ええ先生。私、知っていましたもの」


 その答えに、むしろアンリとトウリが驚いた。


 アイラ曰く、アンリが強い魔法力を持っていることに気付いた段階で、アンリの生い立ちを調べたのだという。アイラの父親は有力な貴族だ。家の力を使えば、調べごとの答えは難なく得ることができた。


 アイラは相手が防衛局の魔法戦闘職員の頂点に立つ者だと知りながら、模擬戦闘を申し込んだのだ。勝とうと思ったのではなく、自分の力がどれほど通じるのかを試すために。


「皆さん仲良くやっているようなのに、そんなことも知らなかったのね。驚いたわ」


 意趣返しとばかりの強気な発言に、アンリは何も言い返せなかった。


「お話って、それだけかしら。それなら私からも、お願いがあるのだけれど。今回の話を秘密にすることの代わりに、というのはどうかしら」


 アイラの言葉に、どんな無茶な要求をされるのかと、アンリはやや身構えた。その様子を見て、アイラはくすりと笑う。


「なにも難しいことじゃないわ。私をこの魔法研究部に入れてくださらない? 防衛局の上級戦闘職員を引退して教員になった方のご指導を受けて、現役の戦闘職員の魔法を見ることができるのでしょう。魅力的だわ」


 アイラはあえて、トウリの経歴さえ知っていることを言葉に匂わせた。その意外な情報力に、トウリも苦笑するしかない。


 アイラの入部については全員の意見が問われた。強いて反対したのはマリアひとりだ。しかし「アイラとは喧嘩中だから」という子供じみた理由でしかなく、その意見は黙殺され、アイラ・マグネシオンの入部が決まった。



 翌日から、メンバーがひとり増えた魔法研究部は、また活発に動き始めた。


 例のごとく訓練は水魔法で任意の形を作るという地味なものだったが、アイラが加わったことで、会話が明るくなる。というのも、


「アイラ、違うよ! 薔薇の花っていうのはもっとこう、花弁の形が……」


「あら、そうだったかしら。マリアってお花が好きよね」


 結局、魔法研究部の活動に慣れないアイラを、マリアが楽しそうに構っているのだった。


 平和だなあと呟きながら、アンリは水でウィルやエリックの等身大模型を作る。


「ねえアンリ君、それ、やめない? 人の形が崩れるところって、結構怖いんだけど」


 エリックの言葉に応え、アンリは製作物を人から植物に変更する。そうすると今度はアンリとアイラ、どちらの作った薔薇がより本物らしいかとの競争が始まった。


「お前ら、真面目に訓練しろー」


 あまり会話に花が咲きすぎると、トウリの指導の声が飛ぶ。


 今ではアンリにも、中等科学園に通うことの意味がわかる。魔法技術を高めるためでも、勉学に励むためでもない。この楽しい学園生活を送るために通っているのだと、アンリはようやく理解した。


お読みいただき、ありがとうございます!

ここで一旦ひと区切り、やや短いですが「第1章完」です。

続きもまたお読みいただけると幸いです。よろしくお願いします。

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