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 現場の片付けが終わり、犯人たちがイーダ支部の職員により拘束されて連行された後。


 学園の応接室で、アンリはトウリの向かいに座っていた。アンリの隣には、隊長が腰掛けている。にこにこと人の良い笑みを浮かべる隊長に対して、トウリは苦い顔をして、深いため息をついた。


「……つまり、アンリは元々防衛局本部の一番隊に所属する上級戦闘職員だが、それを入学にあたっては隠していたと」


「そうです。まさかアンリの担任がトウリさんだったなんて。話が早くて助かります」


「そのうえまさか、お前がその上司とはな……」


 どうやら隊長とトウリには、元々面識があったらしい。隊長がまだ若く、一般の戦闘職員であった時代に所属していた隊の隊長が、当時防衛局の上級戦闘職員であったトウリだという。


 その後トウリは怪我で引退し、中等科学園の教師になったそうだ。アンリが防衛局の最年少戦闘職員になるよりも前の話であった。アンリの存在は防衛局外部には隠されており、トウリのように引退した職員に、その存在を知るよしはなかった。


「入学検査を誤魔化したのか。まあ、一番隊所属なら、そのくらいはわけないだろうな」


 防衛局の戦闘職員は、実力によって一番隊から三十番隊までにわけられている。その中で隊長・副隊長クラス、そして一番隊所属の戦闘職員は「上級戦闘職員」と呼ばれ、一般の戦闘職員よりも実力が高いことで知られていた。


 アンリに隊長や副隊長といった肩書きはない。しかし、一番隊所属であるというだけで、その実力は他の隊の隊長や副隊長に匹敵するものだとわかる。


「入学検査の不正って、やっぱりまずいですかね」


「当たり前だ」


 アンリの不安に、トウリは即答した。しかし、そのまま疲れた様子で、この部屋に入って何度目になるかわからないため息をつく。


「……だがまあ、不問になるだろうな。不正防止を解除できるほどの実力を検査のときに示しながら、こちらがその実力を見抜けなかったんだ。学園側の落ち度になる」


「え、そんな」


「それに、魔法力を過剰に見せようという不正でさえなければ、それほど問題にはされないだろう。とにかくその件については心配しなくていい。問題は、お前が今後どうするかだ」


 事件の後、すぐに到着した隊長によって、訓練室での出来事には箝口令が敷かれた。あの場で起きたことを把握している学園関係者は魔法研究部のメンバーとアイラ・マグネシオン、トウリ、警備員、それからその報告を受けた学園長だけだ。


 防衛局の一番隊隊長といえば、実質的な戦闘部局のトップだ。その命令は一般にも強制力を持つ。つまり、既に知ってしまった人以外には、アンリの能力を今後も隠しておくことができる。


「だが、お前が普段付き合っているメンバーは大体知っちまったからな。やりづらいなら退学するか、転校するのもひとつの手だ」


「うーん。それはちょっと、つまらないですね」


 当初は中等科学園に通うことを渋っていたアンリだが、今ではその生活を楽しんでいる。


 その楽しみを作ってくれたのが今のメンバーであることを自覚しているアンリには、退学も転校も、魅力的な選択肢とは思えなかった。


「それなら他のメンバーに事情を説明して、その上で秘密にするよう頼むか。今のままじゃ、不審が募って逆に話が広まるぞ」


 今、魔法研究部の皆が知っているのはアンリの戦闘能力だけだ。なぜ高度な魔法が使えるのか、なぜ戦闘に長けているのか。つまりアンリが防衛局の上級戦闘職員であることはまだ知らせていない。


 なぜ、という疑問を解決しようと彼らが動けば、その動きで話を知る人も出るだろう。


「うーん……隊長、いいですかね。俺、友達に話しちゃっても」


「規則のことを気にしているなら、構わないよ。元々身分を隠さないといけないという規則はないからな。俺や院長先生が最初に隠すように言ったのは、その方が過ごしやすいだろうと思っただけだ。話した方が過ごしやすくなるなら、それがいいだろう」


 あの場にいた友人たちに、アンリが防衛局の上級戦闘職員であることを告げ、他言しないよう頼む。そのうえで、アンリは中等科学園に通い続ける。


 入学当初ならともかく、三ヶ月経って皆のことがわかってきた今は、それが最善の選択肢だとアンリには思えた。


 話に結論が出て、三人は立ち上がる。


 部屋を出る手前で、そういえば、とトウリがアンリに尋ねた。


「アンリ、お前本当はどれほど魔法が使えるんだ。重魔法も難なく撃っていたが」


「二種の重魔法なら、普通の魔法と変わらないくらいに使えますよ。難なく撃てる重魔法の最高は十種ですね。それ以上はちょっと難しいですが……十五までならたぶん、できないこともないと思います。でも防護壁百枚張った訓練場を壊したときはさすがに隊長に怒られたので、もうやりません」


 さらりと答えたアンリの言葉に、トウリは顔を引きつらせた。二種の魔法を重ねる重魔法でさえ、ほとんど遣い手がいないと言われている。それをアンリはいとも簡単に、十種重ねられると言い放ったのだ。そのうえ、防護壁百枚。トウリには想像もつかない威力だった。


 トウリの反応を見て、隊長はそれまでの人の良い笑みを崩し、悪戯っぽく笑った。


「トウリさん、言い忘れましたが、この子の魔法技術は防衛局内でも断トツですよ。俺だってかなわない。歳が若いから隊長を任されないだけで、実力だけなら今の一番隊のトップはこの子です」

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