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 交流大会が始まった。


 五日間の日程のうち、公式行事は終わりの二日間。それまでは各種の有志団体による行事が三つの学園とその周りの街を賑わわせる。


 アンリが出場することになっている模擬戦闘大会の特別試合は、三日目の夕方に行われる予定になっている。そのときまで、アンリは街中をぶらぶらと遊び歩くつもりでいた。


 ウィルと二人で、いつもよりもだいぶ賑やかになった街中を歩く。街中にはたくさんの露店が出ている。食べ物も美味しそうだし、くじ引きや射的などの簡単な遊びも面白そうだ。


 今日はこのままウィルと二人で街を歩いて、露店をたくさん巡ってみよう。明日はもう少し真面目に学園内の展示を見て回ろうか。模擬戦闘大会の中等科学園生の部を見に行くのも良いだろう。そして三日目も、夕方までなら街の賑わいを楽しむことができるはずだ。


 そんな計画を語るアンリに対し、隣を歩いていたウィルは呆れた様子で「そんなに自由には過ごせないよ」と言った。


「アンリは明日の午後、魔法器具製作部との共同展示の店番だよ。忘れているだろ」


 おや、とアンリは少し考えて、そして思い出した。そういえば、部長のセリーナからそんなことを言われていたか。


 魔法工芸部と魔法器具製作部との共同展示は、交流大会において初めての試みだ。互いの部員から数名ずつ出して、受付や案内などを交替で担当しようという話になっている。たしかにアンリにも、その一人として声がかかっていた。


「そんな予定もあったっけ。……うん、大丈夫。今思い出したから」


 アンリのおざなりな物言いに、ウィルが顔をしかめる。


 しかしアンリに言わせれば、魔法工芸部のことが多少頭から抜け落ちていても大目に見てほしいところだ。


 というのも、魔法工芸部と魔法器具製作部との共同展示にアンリは作品を出していないのだ。自身の作品の展示はないが、部員の務めとして店番くらいはーーアンリにとって明日の店番はその程度のものなので、どうしても重要な予定として頭に入ってこない。


 ちなみに共同展示に作品を出さなかったのは、アンリが出したくなかったからというわけではない。魔法工芸部と魔法器具製作部の両部長から、遠回しにやめてくれと頼まれたからだ。


「アンリ君がやると、共同製作の意味がなくなっちゃうと思うんだよね」


「ええと、アンリ君なら、一人でできるよね。共同製作にすると、僕たちの部の部員が、自信を無くしちゃうかもしれない……」


 魔法工芸部部長のセリーナと魔法器具製作部部長のエリックからこんなことを言われ、それでもやりたいと主張するほどのやる気は、アンリにもなかった。


 そもそも慣れない演舞の練習や特別試合について考えることに忙しく、魔法工芸部の元々の活動である展示販売に出す作品づくりでさえ、おろそかになってしまったほどだ。初の取組となる共同展示に興味はあったものの、そこに割く時間も余裕もなかった。やめるように言われたことは、アンリにとっても渡りに船だったのだ。


「ウィルの店番はいつだっけ」


「僕は明後日の午前中。お昼までだから、アンリの特別試合は観に行けるよ」


「来なくてもいいけど。研究発表の準備は大丈夫?」


 ウィルはこれまで交流大会に向けて、研究科の学園生とともに魔法に関する研究を進めていた。交流大会の最終日にはそれを発表するはずだ。のんびりと街を巡ったり、部活動の展示に協力したり、有志団体の出し物を見学している暇はあるのだろうか。


「大丈夫。研究発表は、事前の準備が要だから。今さら焦って頑張ったところで、結果はそんなに変わらないよ。アンリこそ、練習はもういいの?」


「俺も似たようなものかな。これまでの練習でずいぶん頑張ったから。ここで焦っても仕方がないし、ゆっくり休んで、魔力と体力を温存して本番に備えようって」


「アンリが魔力の温存って」


 ウィルが声を立てて笑う。アンリはただ肩をすくめた。別に、アンリが温存したいと言ったわけではない。オーティスが勝手に気を利かせたのだ。彼自身の体力を温存したいという意味が強かったのかもしれないが。


「ま、おかげでこうやって楽しめるわけだし。……ウィルが暇でよかったよ。今年はイルマークがいないから」


 いつもは交流大会となると熱心に街を遊び歩こうとするイルマークだが、今年は「公式行事に向けて訓練をしようと思います」と言ってどこかへ行ってしまった。今日からの交流大会の期間中は学園の訓練室は使えないので、アリシアとともに、どこか別のところで訓練しているのだろう。


 三日後に公式行事を控える三年生は必死だ。のんびりと街をぶらつくアンリやウィルのような者は少ない。アンリはウィル以外に街歩きに誘える相手が思い付かなかった。


「店番があるから、明日と明後日はあんまり遊び歩けないな。今日のうちに、行きたいところは全部行っておこう」


 アンリの提案に、ウィルも大きく頷いた。






 二人はまず、魔法工芸部で作品を預けた店を見て回った。まだ一日目ということもあって、作品はほとんど売れていない。それでもアクセサリー店では、アンリの作った安っぽいペンダントが大量に入った籠を、小さな女の子が目をキラキラと輝かせながら覗き込むところを見ることができた。


 安く簡単に作れるアクセサリーを大量にーーアクセサリー店を営むアナからそんな指示があったとき、アンリは懐疑的な思いを抱いていた。自身で何か別の作品を思いつけるわけでもなかったので指示に従ったが、仕上がった大量のガラクタのようなペンダントを見て、とてもではないが売れるとは思えなかった。


 しかしこうして、そのペンダントを物欲しそうに見つめる子供がいる。後からやってきた父親と思しき男性が、アクセサリーに夢中になる子供を見て一瞬だけ困ったような顔をして、しかし籠に付いた値札を見てすぐに表情を明るくし「どれか一つ買って行こうか」と、優しい父親らしく子供に声をかけた。大きく頷く子供。


「良かったね、ちゃんと売れそうじゃないか」


 親子に聞こえないように、小さな声でウィルが言った。アンリも小さく頷く。良い作品はつくれなかったと思っているが、これはこれで、良かったのかも知れない。


 とはいえ、アンリ自身で思いついたものではない。アナからの指示があってのものだ。こんな結果をもたらすことも、アンリには想像がつかなかった。やはり根本的に、アンリには魔法工芸に関する発想力が足りていない。


 本来であれば、そこでどれだけ素晴らしい発想ができるかこそが、魔法工芸の醍醐味だろうに。


「ま、格好だけでも魔法工芸部らしいことができて良かった」


 アンリがそう言って肩をすくめると、ウィルは「作品をつくらない僕よりよっぽど良いよ」と笑う。二人とも、魔法工芸部員としては異質だ。


「とりあえず他の店も回って、それから共同展示の会場にも行ってみようか」


「うん。あと俺、魔法戦闘部も行きたいな。去年と同じようなことをやっているんだろ? ウィルは、今年はやらないの?」


「えっ。いや、あれは二年生が中心にやるやつだから。行ってもいいけど、なんだか可哀想だな……」


 そう言って困った顔をしながらも、アンリが笑って「いいじゃん、行こうよ」と促せば、ウィルも嫌がることなく歩を進めた。






 魔法工芸部と魔法器具製作部との共同展示は、魔法士科学園の教室の一つで開催されていた。隣の教室では魔法器具製作部単独の展示もやっているらしい。近いほうがやりやすいから、という希望が通ったのだろう。


「あれ、セリーナとセイアの机だね」


 ウィルが指差したほうを見れば、展示場の奥に見覚えのある学習机が置いてある。セリーナとセイアが新人勧誘の際にも魔法工芸部で展示していた机だ。

 弟のためにつくっているとの話で、元々魔力灯で手元を照らせるようにしてあったり、空間魔法の機能を持った魔力石を使って引き出しの容量を大きくしていたりと、魔法器具に近い機能が備えられていた。どうやら魔法器具製作部の手を借りて、その機能を強化したらしい。


 学習机のほかにも、周囲を幻想的に照らす魔力灯や、繊細な模様の彫られた箱型の収納具、美しい音を奏でるアクセサリーなど、さまざまな作品が並んでいる。


 どれも魔法工芸品として、展示販売のほうに出品してもきっと売れるだろうという出来栄えだ。それでいて魔法器具としても加工されているのだから面白い。


「魔法工芸と魔法器具製作って、組み合わせると良いものができるよなあ」


「アンリだって、似たようなことはやっていたじゃないか」


「あれはちょっと、中途半端だったから」


 魔法器具のような機能を持たせたアクセサリーなら、たしかにアンリも作ったことがある。革の腕輪に魔力石を取り付けて、石や模様が光るようにしたのだ。しかし目の前に並ぶ作品と比べると、そのときにつくったものは良い出来とは言えなかった。改めて思い返して、アンリは顔をしかめる。


「もう少し意匠にこだわらないと。魔法工芸品としては良くなかったよな」


「……あのアクセサリーは、魔法工芸部の作品として展示したんじゃなかったっけ」


 そうだよ、と頷きつつアンリは肩をすくめた。魔法工芸と魔法器具製作の組み合わせを考えるとき、アンリの考えはどうしても魔法器具製作のほうに寄ってしまう。今もこうして作品を眺める中で、「魔法器具の部分を作るなら簡単だけれど、こんな意匠は俺じゃ思いつかないな」などと思える作品が多い。


 魔法工芸部員としてどうなのかと思わなくもないが、得手不得手の問題なのでどうしようもない。


「やっぱり俺、ここの作品はつくらなくて良かったよ」


 魔法工芸部と魔法器具製作部の共同製作に関わっていたら、きっとアンリは魔法工芸部員としては中途半端な作品しかつくることができず、それでいて魔法器具としての機能の部分にはあれやこれやと注文をつけたくなったに違いない。


 そうだね、と笑うウィルとともに、展示会場を後にした。

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