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魔法工芸部でも、交流大会に向けた動きが少しずつ始まっていた。
今年も魔法工芸部では、いくつかの商店に部員の作品を置いてもらう展示販売を予定している。まだ商店への挨拶前ではあるが、部活動では上級生を中心に、どこの商店に展示をお願いするかの検討や、新しく展示をお願いする商店向けの見本品づくりなど、準備を始めていた。
「アンリ君にも見本品づくりをいくつかお願いしたいんだけど」
アンリが部長のセリーナからそんなふうに声をかけられたのは、アンリも交流大会に向けて何か作品づくりの準備を始めようかと、作業台に向かって頭を悩ませはじめたときのことだった。
構わないけど、と答えながらもアンリはこれまでの自身の作品のことを思い返して、眉をひそめつつ首を傾げる。
「俺のでいいの? 知ってると思うけど、大したものはつくれないよ。それより、セリーナたちの机とかを持って行ったほうがいいんじゃない?」
「あれは売るつもりがないから駄目。それに見本品として持って行くには、机だと大きすぎるでしょ」
セリーナ曰く、見本として商店に持って行くなら、持ち運びやすいアクセサリー類がちょうど良いらしい。元々小さなアクセサリーを制作することの多いアンリの作品なら、うってつけというわけだ。そのほかイルマークのつくったアクセサリーや、サンディのつくる小物も見本品として用意することを考えているらしい。
「イルマーク君には、新人勧誘のときに展示したのをいくつか見本として出してもらうようにお願いしてあるの。サンディちゃんはお願いしたら、新しいのをつくるって。アンリ君はどうする?」
「じゃあ、俺も新しいものをつくろうかな。交流大会の練習だと思って」
新人勧誘のときには、昨年の交流大会でつくったものを焼き増ししたようなアクセサリーしかつくれなかった。見本品と思えばそれで十分なのだろうが、自分のためには、次の交流大会に向けた練習として新しい作品づくりに挑戦したほうが良いだろう。
ところがそんなアンリの言葉に、セリーナは不安そうに首を傾げた。
「お店への挨拶は明後日を予定しているんだけど、間に合う?」
随分と急な話ではあるが、たしかに昨年各店に挨拶に行った時期を考えれば、もう動き出さなければいけない時期だ。どの店にお願いするかという話し合いの中で新しい店も開拓しようという案が出て、急遽、見本品の用意が必要となったらしい。
セリーナは申し訳なさそうに眉を八の字に歪めるが、彼女のせいではない。
「今日明日で考えてみて、思いつかなければ新人勧誘のときと同じようなものをつくるよ。明後日には何かしら用意するから、心配しないで」
アンリが軽く請け合うと、セリーナは「じゃあ、よろしくね」と、肩の荷が下りた様子で笑顔を見せた。
その後、作業室に部員が増えてきた頃合いを見計らって、部長のセリーナと副部長のセイアが、部員全員に向けて交流大会の説明を始めた。
まずセリーナが展示販売について、初めての参加となる二年生にもわかるように丁寧に説明する。魔法工芸部では例年、交流大会で露店を出す店舗に作品を預け、展示販売してもらっていること。事前に店と打ち合わせを重ねて、どんな作品を用意するか決めていること。今年は部員が増えたため、これまでに付き合いのない新しい店にも、作品を置いてもらえるよう交渉するつもりであること。近日中に、新しい店も含めて全ての店に挨拶に行くこと。
アンリにとっては昨年に引き続き二度目のこととなるので、目新しいことはない。同じく二度目となるコルヴォたちも、そういうものだと澄ました顔をしている。一方で今年が初めての参加となる新人たちは、不安と期待が入り混じったような顔でセリーナの話を聞いていた。
「もちろんお店への挨拶は、三年生以上の先輩たちと一緒に行ってもらうから、心配しないで。ものは試しに、やってみましょう」
セリーナの優しい言葉に、二年生たちは不安よりも期待の色を濃くして、笑顔で頷いたのだった。
セリーナの説明が終わると、次はセイアの番だ。
今年の交流大会に向けた魔法工芸部としての活動は、どうやら展示販売だけではないらしい。そしてセイアは副部長として、もうひとつの取組みのほうを担当するようだ。
「今年は新人勧誘も魔法器具製作部と合同でやったりだとか、色々とあちらの部活動と交流が多いでしょう。それで、せっかくだから交流大会でも、魔法器具製作部との合同展示をしたいと思ってるの」
セイアの説明によれば、やることはそれほど難しくないようだ。魔法器具製作部は魔法工芸部と違い、例年交流大会では、学園の教室を使って作品展示をしている。今年はその一角で、魔法器具製作部と魔法工芸部との共同製作の作品を展示しようというわけだ。
「ちなみに私とセリーナが作った机は、そこに展示するつもり。魔法器具製作部の人たちに頼んで、引き出しとか手元灯のところの細工を、もっと良い感じに仕上げてもらおうと思っているんだ」
セイアが嬉々として語る。
セイアの弟のためにつくったという学習机。セイアとセリーナの二人で意匠を考え、二人の魔法工芸の技術を駆使してつくった机だが、使いやすいようにと引き出しには空間魔法を応用した魔法器具の機能が付いており、手元を照らすための魔力灯も組み込まれている。
部活動での成果品として新人勧誘のときにも展示はしていたが、弟のための作品だからと、交流大会の展示販売に出すつもりは無いようだった。これまでの魔法工芸部の活動を思うと交流大会では日の目を見ない作品となりそうだったが、共同製作作品として、無事に展示の場を得たというわけだ。
見事な作品であればこそ、このままどこにも展示されずに個人の学習机に収まってしまうのは惜しいとアンリも思っていた。製作者であるセイアやセリーナにも、同じ思いがあったのだろう。二人とも嬉しそうに、得意げに胸を張る。
自慢の作品の中で既製品に頼ってしまっていた魔法器具部分の加工を魔法器具製作部の部員に任せて改良し、世界に一つだけの、弟専用の学習机にするつもりのようだ。
「もちろんこの机だけじゃなくて、ほかにも私たちの作品に魔法器具的な機能を付けてもらうとか、あるいは逆にあちらで作った魔法器具に私たちが魔法工芸の技で飾り付けをするとか、そんなことができれば良いなって考えているところ。皆もやってみたいことがあったら、遠慮なく言って」
どうやら具体的にやることが決まっているわけではないらしい。初めてだからこそ、何をするかはこれから話し合い、試行錯誤しつつ決めていこうということのようだ。
「とはいえ、お互いのことをよく知らないと何ができるかもわからないでしょ。だから交流大会までに、相手の部活動の見学とか体験とか、そういう部員の交流もやってみたいとは思っているところ」
魔法器具製作部の見学や体験。セイアの語る計画を聞いて、アンリは面白そうだなと興味を抱いた。魔法器具製作部で普段どんな活動をしているのかはマリアやエリックたちから聞くこともできるが、自分で体験してみることができるなら、それはきっと楽しいだろう。
「今度、話がちゃんと決まったらもっと具体的にお知らせするから、よろしくね」
そのときにはぜひ立候補しようと、アンリはすぐに心に決めた。
それにしても、交流大会では公式行事もあるというのに、セリーナもセイアもよく部活動にこれだけ力を入れられるものだ。
全体への説明が終わったところでアンリが話を向けると、二人は顔を見合わせて「そりゃあね」と笑った。
「私たちにとっては公式行事も部活動も、どっちも同じくらいに大事だから」
「公式行事があるからって、部活動をおろそかにはしたくないよね」
ちなみに二人は公式行事において、それぞれ研究科の学園生と組んでの研究発表を予定しているのだという。公式行事である以上当たり前のことではあるが、いつも一緒に行動している二人がそれぞれ別々に研究を行うというので、アンリには珍しく思われた。
正直にそれを言葉にすると、セリーナがくすくすと笑う。
「私たちだって、別々に行動することくらいあるよ。そもそも去年までは、クラスだって別だったんだから」
それもそうか、とアンリは昨年のことを懐かしく振り返った。ついこの間のことなのに、随分経ったように思われる。昨年まで、セリーナは一組でセイアは三組だった。今年になってようやく、二人はクラスメイトになれたのだ。
「といっても、研究発表は似たような分野のことをやるから、お互い協力してやるつもりだけどね」
セイアが補足するように言った。詳しく聞けば、セリーナは魔法工芸のために素材の強度を上げるための研究を、セイアは加工のために素材の柔軟性を上げる研究を行うつもりでいるらしい。
つまりはどちらも、素材の強度に関する研究だ。
やることは同じじゃないかーーアンリが呆れてそう言うと、二人は否定も反発もせずに、再び顔を見合わせてくすくすと笑った。
「私たちが組む研究科の子も、私たちと同じで互いにとても仲良しなんだ」
「二人でというより、四人で良い成果をあげられるといいなって思っているの」
結局のところ、別行動をするつもりはないらしい。部活動も公式行事もと、やりたいことに妥協しない二人らしい選択だ。
嬉しそうに話す二人を見て、アンリも自然と笑顔になった。




